スモールサイズのスカーフ「ツイリー」をハンドルに巻いて楽しむ。「色や柄によって結構印象が変わるんですよ」と根岸さん。黒ベースの装いにスカーフの色が鮮やかに映えていた。
▶︎すべての写真を見る 根岸由香里さんの「マイ・ファースト・エルメス」との出会いは、前職でパリを訪れたとき。「イニシャル」と呼ばれていたこのバッグをエルメスの本店で目にする。2002年頃のことだ。
「実は出張に行く前からこのバッグのことは知っていました。雑誌やテレビでたびたび見かけて“なんてカッコいいんだ!”と思っていて」。
当時20代半ば。もちろんメゾンを代表するバッグ「バーキン」や「ケリー」も知っていたが、自分の生活とはかけ離れた遠い存在だった。
だがこのモダンな雰囲気の「イニシャル」に出会うことで、エルメスというブランドを強く意識し始めたという。
「でもすぐには購入しなかったんです。とても高価なものですし、いったん落ち着こうと自分に言い聞かせて。そして、現地での仕事をひととおり終えた段階でこのバッグがまだお店にあったら……思い切って買おうと」。
根岸由香里さん●2008年にサザビーリーグに入社し、ロンハーマンのブランド立ち上げ時よりバイイングを担当。ウィメンズのクリエイティブディレクター兼バイヤーとしてキャリアを重ね、16年よりロンハーマン事業部長に就任する。
これが経緯である。しかしながら憧れのバッグを手に入れたにもかかわらず、身に着ける機会はそれほど多くなかったそうだ。
「その後ロンハーマンの立ち上げに関わり、私自身まさに西海岸的なカジュアル服で過ごしていました。ボディボードを始めたのもこの頃。そんなライフスタイルでしたから、少し目が向かなかったのかもしれません」。
改めてこのバッグの魅力を実感するようになったのは、実は4、5年前からだ。シックなワンピースに合わせたり、あるいは白Tシャツ&ヴィンテージデニムにコーディネイトしたり。
「やっぱり、どこからどう見てもいいバッグなんですよ(笑)。『かっこいいですね』と声をかけられることも多くて。アノニマス(匿名的)なデザインなのに、見た人に強い印象を与えるんですよね」。
長い時間のなかで、根岸さんとこのバッグは近づいたり離れたりを繰り返してきた。そして今、お互いがいちばんいい距離にあるのではないだろうか。
「自分がエルメスに追いついた、とはまだ言えません。でも“少しは似合うようになったかな?”と自問することこそが、とても豊かだと思うんです」。