「弊社の看板娘」とは…… 建物の壁や床、土塀などを塗り仕上げる左官職人。
古代日本では宮廷建築の壁を塗る職人に「属(そうかん)」という階級が与えられており、それが訛って「さかん」になったという説もある。
最近は女性を積極的に採用する企業も増えているそうだ。そんな噂を聞いて向かったのは文京区・千駄木。
路地にはこのような懐かしい風景も。
【写真20点】「左官職人の看板娘」を写真でチェック 今回の舞台は「原田左官工業所」。創業は1949年で左官工事、タイル貼り工事、ブロック工事などを専門に請け負う。
こちらはショールームで作業場は隣にある。
ちなみに、「ご自由にお持ち下さい」というタイルは現場で余ったものを地域還元のために置いているそうだ。
作業場のほうを覗くとーー。
看板娘、発見。
では、ご登場いただきましょう。
「よろしくお願いします」。
左官職人歴8年の古澤ひかりさん。荒川区で生まれ育つが、ひとつ悩ましいことがあった。
「朝起きられないんですよ。怠けているとかじゃなく本気で。小中は近所だったから時間的に余裕がありましたが、高校は自転車で40分ぐらいかかる場所。午前中の授業には間に合わないので、放課後に補修を受けまくって何とか卒業できました」。
デスクワークが嫌だったのと、祖父と同じ大工になりたいと思っていた。しかし、問題は朝が早いこと。結局、建築系の専門学校で設計を学んだ。
慣れた様子で材料を練るひかりさん。
専門学校卒業後は渋谷のゼネコンで現場監督見習いのような仕事に就く。そこで左官屋さんから聞いた「左官はもうおじいちゃんばっかりだよ」というセリフに興味を持ち、原田左官工業所に転職した。
「厳しい世界でも若いと重宝されるかなと思って。でも、実際に入ってみるとみんなすごくやさしいし、女性もたくさんいました」。
右手にコテ、左手にコテ板というのが塗るときのスタイル。
今塗っているのは住宅展示場用の巨大モニターを置くための台だという。上手く塗るコツは何だろう。
「自分の中でこれは上手く塗れたという基準を作ることでしょうか。説明が難しいんですが、特定の場所に目がいってしまわない仕上がりが理想だと思います。
あと、左官の仕事は総合的なものなので、養生して、型枠を作って、塗って、最後にきれいに掃除するところまでがセットです」。
実際に現場で仕事をしているところ。
「お客さんに会う機会はほとんどありませんが、たまに仕上げた壁を見て『わー、すごい』と喜んでくれたときはうれしいですね」。
材料や配合は仕事内容によって変える。
色の演出も自由自在。
ここで、隣のショールームも案内してもらう。単に壁を塗るだけでなく、技術は常に進化していることがわかった。
「うちの会社が推しているのは、こういう地層風の壁。石や粒の大きさごとに上から順に塗っていきます」。
繊細な職人技が光る。
熊本の旅館から発注されたという家紋風の意匠もすごい。
こんなデザインもできるのか。
また、「アップサイクルテラゾ」という手法では廃棄するワインのコルクや銅線などを再利用できる。素材の色や形を残したエコな商品だ。
右の石庭のようなタイルは砂利を樹脂で固めたもの。
また、「OLTREMATERIA」というシリーズは非常に表面強度があり、かつ弾性を兼ね揃えている材料。
イタリアのエコマット社から輸入したもの。
「これも面白いですよ」とひかりさん。「左官の伝統技術、『版築』という技法で作った炊飯かまどです。もちろん、実際にお米が炊けます」。
この存在感で4万円はお安いのでは。
2/2