ただ波に乗るだけでは十分ではない
エジンバラ・ネピア大学研究者 ジェイミー・マーシャルさん●1990年、英国ロンドン近郊生まれ。スコットランド・バラ島在住。15歳のときに学校の行事でサーフィンと出会い、19歳で英国のコーンウォール地方でサーフセラピーを施す団体「THE WAVE PROJECT」で働く機会を獲得。そのキャリアを活かしてスコットランドで展開することに。そしてフィールドでの経験を蓄積したのち、研究職の道へ。
さらに興味深いのは「ISTO」によるサーフセラピーの定義では、人々をサーフィンに連れていくだけでは十分でないとすることだ。この点については、同定義の作成に関わったジェイミー・マーシャルさんが詳しい。
スコットランド在住の彼はエジンバラ・ネピア大学の研究者で、サーフセラピーのみに焦点を当て博士号を取得した世界初の人物。もちろんサーファーである。
「重視すべきポイントは、プログラムを提供するスタッフ、波に乗るという行為、参加する個人もしくはグループといった構成要素が有機的に結びつく必要があるということです。なぜなら参加者が患う病と症状の重さは多様だからです。
実際に私はこれまで、退役軍人、救急隊員、元少年兵、ジェンダーに基づく暴力の被害者、ギャング、自閉症スペクトラム障害の子供といった、さまざまな事情を抱く人たちがサーフィンにトライする状況に立ち会ってきました。
そしていずれの場合も、プログラムの開催にあたっては事前に病の実情を理解し、施されるべき内容を検討してきました。というのも、的確なアプローチができてこそ、初めて心理的、身体的、心理社会的な幸福を促せるからです。
逆に言えば、心理学や作業療法といった臨床の世界を追求することで得られる医療的な知見を、サーフィンの特性と融合させることができなければ、サーフセラピーの真の効果を得ることは難しいのです」。
東アフリカでジェンダーに基づく暴力の被害者に施す場合と、日本で福祉施設に入居する高齢者に施す場合とでは、プログラムの内容が異なって自然といえよう。
前者は、傷ついた心を癒やすヒーリング効果に重心が置かれ、波の上を滑空するようなフィーリングを知るサーファー同士のコミュニケーションが効果を発揮する。後者は大空のもとで波と戯れる行為を通して活力を得ることにフォーカスすべきといえる。
何よりも家庭や社会という生活環境が大きく違う。こうした参加者の背景に思いをどれほど寄せられるのかによって効果は変化するとジェイミーさんは言い、提供側が備える実力次第でサーフセラピーの可能性は大きく変わるのだと説いた。
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