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アッパー、ラスト、そしてディテールまで深化

実に5年ぶりの復刻となる「クライド」。その見どころはアッパーに採用したスエードに限らない。

ラストは21年に誕生した「スウェード ヴィンテージ」のものを採用している。「スウェード ヴィンテージ」は「クライド」から「スウェード」に切り替わった70年代終わりのラストをベースにしたコレクションだ。

底付けも当時のモデルに倣い、現行のサイドマッケイ(1980年代後半に登場)ではなく、セメント製法で仕上げている。ステッチを排したクリーンな顔つきはスニーカーヘッズならたまらないはずだ。



スニーカーヘッズを唸らせるディテールはまだある。レースステイを補強するアイレットベースがそれだ。アッパーの上に縫いつけられているのがわかるだろう。やはりその時代に考案されたコンストラクションで、それまではアッパーの下に隠れていた。

「初期のアイレットベースはシュータンのずれを防ぐ役割も担っていました。シュータンの構造進化などにより、アイレットベースはかならずしもアッパーの下にある必要がなくなりました。結果、デザインアクセントとして表に出てきたのです」(野崎さん)。

履き心地にまつわる部分に関しては、これまでに蓄えた知見でブラッシュアップされている。レースステイを後方にずらし、トウまわりを大きくとったパターンワークはなめらかな屈曲を追求したものだ。足裏にフィットするカップインソールも特筆したいポイントである。


トレーニングシューズに始まるファミリーヒストリー

野崎さん私蔵の1970年代の「クライド」。

野崎さんが私蔵する1970年代の「クライド」。箱付きは貴重だ。


ここまで読んで疑問を感じた読者もいるだろう。復刻であれば「クライド」が誕生した1973年当時のスペックを再現すべきだったのではないか、と。

「’70年代後半はコートスポーツだったバスケットボールが街に飛び出し(ストリートバスケット)、市民権を得た時期にあたります。つまり、ぼくらの記憶に深く刻まれたプーマのバッシューを蘇らせたというわけです」(野崎さん)。

それはまた、「スウェード」が「クライド」と地続きにあった歴史を伝える試みでもある。

「クライド」はNBAのスター、ウォルト・フレイジャーのシグネチャーモデルだ。

「クライド」はNBAのスター、ウォルト・フレイジャーのシグネチャーモデルだ。


「クライド」は“50人の偉大な選手”にも選ばれたNBAのスター、ウォルト・フレイジャーのシグネチャーモデルである。1979年の引退と同時に契約は解消されるも、生産終了を惜しむ声はやまなかった。

プーマは一計を案じ、“clyde”の刻印を取り払って売り場に並べた。カスタマーはいつしかこれを“プーマのスウェード”と呼ぶようになった。



その糸をたぐれば1968年に発売された「クラック」というトレーニングシューズにたどり着く。「クラック」をベースとしたバスケットボールシューズをつくってくれとオファーしたのがフレイジャーであり、そうして誕生したのが「クライド」だった。

ここで3つのモデルをおさらいしておこう。

「クラック」はヘリンボーン・パターンのソールで、ラストは細く、内羽根だった。

これを対滑性に優れたデュラブルスター(ソール)と肉厚なラスト、外羽根でアップデートしたのが「クライド」だった。規格外の大きな足もすっぽりと収まり、コートの上の機敏な動きを可能とした。

「スウェード」の基本構造は「クライド」と変わらない。違いはアッパーにプリントされたロゴが“puma SUEDE”になっていることだ。


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