OCEANS

SHARE

想像もしなかった通年営業に転換

民間が入ってキャンプ場の施設が劇的に変わったかというと、実はそうではない。設備は現在もとてもシンプル。シャワー、トイレ、炊事場、スノーピーク製品を販売する管理棟がある程度で、高規格キャンプ場で見かけるような子ども向けのトランポリンなどの遊具や、温泉施設、食材や飲み物の売店はない。

テントを張る区画数は、電源が使える区画を含め58サイト。利用料は電源なしのサイトが1800円、電源付きサイトが3000円で、市が運営していた当時と同じ。

建築家の隈研吾氏が設計した「住箱」というトレーラーハウス

建築家の隈研吾氏が設計した「住箱」というトレーラーハウス


ひとつ目新しいものといえば、建築家の隈研吾氏が設計した「住箱」という名前のトレーラーハウス5棟がある。布団や照明などがそろい、テントを持っていなくてもアウトドアを楽しみたいという人向けだ。

とはいえ、全体としては一般的なテントサイトという中で、いったいどうやって集客しているのか。十勝ポロシリキャンプフィールドの店長、内山勝男さんに聞いてみると、「大きく変えたのが、夏に加え冬期もキャンプ場を開く、通年営業にした点です」と話す。

寒い中でのたき火も格別だ

寒い中でのたき火も格別だ


帯広市の1月の最低平均気温は零下13度と冷え込みが厳しい。積雪もある。帯広市の担当者は「冬にキャンプをするという発想はありませんでした」と振り返る。

長野出身の内山さんも夏を除き、気温が低い北海道のキャンプ場運営に若干の不安を感じていたという。しかし、次第に「これほど寒い世界を体験できるキャンプ場は全国でも少ない。冬キャンプならではの楽しみを伝えたいと思うようになりました」と言う。

冬のキャンプ場は夏とは打って変わり静寂に包まれる。チェックイン後、テントを設営した後は日中からゆっくりと焚火を堪能できる。明るいうちに散策するのもいい。夕方になると冷え込みが厳しくなるのでテントの中へ。

シェルターの中で、温かい料理や熱燗を楽しみながら読書など自分時間を楽しむ。時折、氷点下の外へ出て満天の星を眺める。夏とは違う雰囲気が味わえそうだ。冬のキャンプに自信のない人に向けて、ストーブ付きのトレーラーハウスもある。

一面真っ白になった冬のキャンプ場

一面真っ白になった冬のキャンプ場


一方で、冬キャンプは一歩間違うと命の危険もある。誤ったストーブ利用は火災や一酸化炭素中毒の危険があるためだ。ポロシリキャンプ場では就寝前に必ず消火すること、一酸化炭素チェッカーなど対策を講じることを呼び掛けている。また、雪中キャンプイベントを定期開催し、初心者が冬キャンプの注意点を学べる場を提供している。

冬はサイト数を夏の約3分の1に縮小しているが、期間限定でサウナを設置するなどのイベントも功を奏し、2021年冬の利用者は618組と、2018年に比べ約4倍に伸びた。比較的空いている冬を狙う客もいるといい「玄人のイメージが強い冬キャンプですが、ファミリーも少しずつ増え始めて裾野が広がっています」(内山さん)

もう1つ、地味だがキャンパーにとって重要なポイントがある。家族で何度も訪れているという、帯広市の速水優太さんは「水回りがとにかくきれいなので、妻も子どもも気に入っています」と言う。内山さんも「家族連れのリピーターを増やすためには、水回りの清潔さはとても重要」と話す。

ありそうでなかった排水溝ネット

ありそうでなかった排水溝ネット


工夫の1つが、炊事場に備え付けられた排水溝ネットだ。キャンプ経験がある人は分かると思うが、排水溝は前の人が洗った皿や鍋の食べ残しで汚れていることが少なくない。

「炊事場に排水溝ネットとゴミ袋を置き、使った人が毎回ネットを取り換えることで清潔な状態を保てるようにしました」(内山さん)。筆者はこれまで東北や関東でキャンプをしたことがあるが、都度ネットを変えるキャンプ場は初めてだ。

このほか芝生の手入れや、トイレとシャワー室の清掃もスタッフがこまめに行って清潔さを失わないよう気を配る。シンプルなことだが、こうした積み重ねがファンづくりにつながっている。


3/3

次の記事を読み込んでいます。