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葛藤③ 自分を再ブランディングする必要性

名乗らずとも街に埋没して生きていけるのが都会の特徴だが、田舎は自分を放っておいてはくれないとも平澤さんは話す。

「近所の人に、自分はこういう者ですって説明する必要がないのが都会の特徴だなって改めて思いますね。でも、田舎に行くと、私はこういう人間で、こういう理由でここにいますって言えないと『あいつは誰だ』っていうのが常につきまとうんですよ」。

平澤さんはこの作業を自分の「ブランディング」と呼ぶ。

平澤さんは、田舎の風景を背景にした自身のスナップ写真を#里山スナップををつけてInstagramで投稿し続けている。「田舎では元電通マンの公務員という肩書きより、こっちの方が面白がってもらえるんです」。

平澤さんは、田舎の風景を背景にした自身のスナップ写真を#里山スナップをつけてInstagramで投稿し続けている。「田舎では元電通マンの公務員という肩書きよりも、こっちの方が面白がってもらえるんです」。


「地域の人に聞かれるからっていうのもありますが、むしろ自分は何者で、なぜここにいるのかを自分でわかっていないと、そもそも地方移住は難しいと思います。いずれそれを問う時期は必ず誰にでも訪れると思うので。まさに自分のブランディングですね」。

「電通で仕事をしていた」がdoの肩書きなら、田舎で必要なのは「どうありたいか」というbeの肩書き。都会にいるときより自分の存在価値と向き合う機会が多いのが田舎暮らしなのだ。


葛藤④ 子供たちの選択肢が少ない

都会から地方に移住するというと、子供に自然豊かな住環境を与えられると思われがちだが、そこにはちょっとした落とし穴があるという。

「岡山に来てから気付いたことですが、湘南ってめちゃくちゃいいところですよね(笑)。海や山の豊かな自然があって、都市機能もある。映画が見たければ駅のモールに行けばいい。ちょうどいい自然って実は難しいんですよ」。

平澤さんは職業の選択肢の幅も圧倒的な差があると指摘する。

「こっちでアンケートを取ると、将来なりたい職業は公務員や病院関係などが上位に挙がりますが、東京だとカメラマンやエディター、コピーライターなど、横文字の職業が普通に出てくるじゃないですか。選択肢の差はあると思います」。

地方移住を考える人のためにあえて地方移住の難しさを語ってもらったが、平澤さんは自分の決断を肯定している。

移住を人生の一大事みたいに捉えるのではなく、いくつもあるチャレンジのひとつとして捉えれば、失敗も経験として糧になります。移住するかどうか悩んでいる人がいたら、ぜひ挑戦してほしいです」。


なかなか聞けない地方移住で直面する心の葛藤。包み隠さず話してくれた平澤さんの話は、これから田舎に移り住もうと考えている人にはいい参考書になるはずだ。

ぎぎまき=取材・文

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