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2022.08.24

かぞく

息子とロードトリップに向かった枡田琢治さんの数日間。2人で作った貴重な思い出

ロウワーボブズでの雷治のリサイタル。このレジェンダリーなパークではパットやヘルメットをしないのがクールだとか。

ロウワーボブズでの雷治のリサイタル。このレジェンダリーなパークではパットやヘルメットをしないのがクールだとか。


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元プロサーファー・枡田琢治さんが息子とともに行ったカリフォルニアのロードトリップ。

遊びながら、親子の関係を育んだ数日間。そこから、父と息子が感じ取ったものとは?
前編中編はこちら。

「サーフトリップには、言うなれば“ソーシャルIQ”が重要」

オークランドのロウワーボブズというレジェンダリーなパーク。コーピングでターンをメイク。

オークランドのロウワーボブズというレジェンダリーなパーク。コーピングでターンをメイク。


夢だったフォート・ポイントでのセッションを終えて、J.D.のパーティまで時間があったので、彼らはオークランドにあるロウワーボブズというスケートパークに向かう。

ここはDIYと呼ばれる、許可なしの手作りパークで、それぞれがコンクリートを持ち寄ったりしながら作り上げたところ。オークランドという土地柄に加え、パブリックなパークとは違いとてもハードコアで危ない薫りがする。

とはいえ、レジェンダリーな場所で、ネックフェイスのグラフィティがあったり、「スラッシャー・マガジン」のコンテストが行われたり、数年前に亡くなった「スラッシャー・マガジン」の編集長、ジェイク・フェルプスをオマージュするなど、リスペクトに溢れたパークだ。

ここでの流儀は「オールドスクール」。パッドやヘルメットを着けずに流れることがクールとされている。そんな流儀を踏まえて、雷治は力を抜きつつもモダンなステイルフィッシュというトリックを入れたりと、見事なクルージングを見せていた。

ボードライディングと旅で大切なことはスキャニングすることだと琢治。まずはじっくり沖をスキャン。

ボードライディングと旅で大切なことはスキャニングすることだと琢治。まずはじっくり沖をスキャン。


「ボードライディングでいちばん大切なことは、周りをスキャニングすることなんです。パッドを着けずに滑っているところで、フル装備で滑ったりすれば、変に刺激します。

サーフィンも同じで、すぐパドルアウトしないってことが肝心です。どんな波が来るのか、どんなサーファーがいるのか、沖にいるサーファーたちは、それぞれどんな気分なのか、楽しんでいる人もいれば、苛立っている人もいるはずです。

そんなことをスキャンして、自分でクイズをしていく。大切なことは気付くこと、理解すること。それはサバイバルに必要なことで、楽しくやることにもつながると思います。旅も同じですね。

要はハーモニーの取り方。僕が雷治に教えられることがあるとすれば、そういうことです」。

ロードトリップのメインイベント、J.D.サンチェズの13歳のバースデイパーティはブレイルの室内施設でのヴァート・ランプ・セッション。 

ロードトリップのメインイベント、J.D.サンチェズの13歳のバースデイパーティはブレイルの室内施設でのヴァート・ランプ・セッション。 


J.D.のバースデイパーティはロウワーボブズとは違い、倉庫の中のパークで行われ、とてもフレンドリーなものだったそうだ。

もちろん気心の知れた仲間と繰り広げるセッションは格別だったに違いない。そもそも、旅の目的はこのセッションだったわけだから。

ベイエリア北部のフォート・クロンキーでのサーフィン。エアを決める雷治。 

ベイエリア北部のフォート・クロンキーでのサーフィン。エアを決める雷治。 


翌朝はサンフランシスコのクラシックポイントであるオーシャンビーチを狙ったものの、あいにく風が合わず、北部のマリンカウンティにあるフォートクロンキーでサーフ。琢治にとっても、数本のエアを決めた雷治にとってもアフターサーフィンに話が尽きない、ファンなセッションとなった。

そして出発前はミッション地区にあるポトレロパークでJ.D.とお別れのセッションとなる。こうして週末のロードトリップは帰路を残すのみとなる。

ミッション地区にあるポトレロパークで。雷治も絶賛! 大親友J.D.サンチェズのトリック。

ミッション地区にあるポトレロパークで。雷治も絶賛! 大親友J.D.サンチェズのトリック。


「僕と雷治はこんなファンな思い出をナチュラルにつくっていきたい。将来的に残せるものがあるとすれば、思い出くらいですからね。

オープンマインドな気持ちでいれば、楽しい仲間を見つけることができるし、仲間はどんどん増えていく。サーフトリップは言うなれば“ソーシャルIQ”が重要なのだと思います。

旅に限らず、いいやつであればあるほど、いい招待が来る。楽器がうまく弾ける人はいつだってウェルカムだし、料理の上手なやつはパーティで引っ張りだこですよね。ボードライディングも同様。雷治にはそういうことを感じてほしい。

仲間をたくさんつくり、いいメモリーを増やしていく。気がつけば世界中にたくさんの仲間がいる。最高ですよね」。

ジャック・ケルアックの名著『オン・ザ・ロード』の主人公、ディーンはロードトリップが持つ即興性を強烈なエゴで乗り越えていったが、枡田親子はオープンマインドな“ソーシャルIQ”で、旅の出会いを心地良く取り込む。

ケルアックが本書でカリフォルニアに入るたまらない瞬間を、「キスしたくなる空気」と綴ったが、この親子もまた「キスしたくなる空気」を漂わせていたに違いない。
[Profile]枡田琢治●1971年、神奈川県鎌倉市生まれ。現在はカリフォルニア州マリブ在住。元JPSAロングボードチャンピオンであり、映像、プリントなどでサーフカルチャーを発信。監督作品の『BUNKER77』はAmazonプライム・ビデオにて配信中。雷治は現在12歳で、インスタグラム(@ryjimasuda)でもそのライディングを公開している。


RIP ZINGER=写真 古谷昭弘=編集・文

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