「ランキング」も「推し」もなし、『無編集』の空間
──コーナーでは、実際にどのような反応、過ごし方が見られるのでしょう。 ぐるっと眺めて回るお客様、いろいろ本を抜いて立ち読みするお客様、近くにあるスツールに腰かけて見上げるお客様、写真を撮る方、「この棚何なんだろうね」と話す方、「横に積んであるのって結構いいね」と言いながら2人で首を横にかしげているカップルなど、実にさまざまですね。
「こう見てほしい」というのはなくて、好きなように見ていただき、好きなように感じていただけたらと思います。本を読むこと自体、そういうものなのではないでしょうか。
──新刊が毎日入れ替わる中での苦労は。また、実際の作業はどのように? 作業は分担して行っています。入荷してくる新刊の山から1冊ずつ「BOOK WALL」用に抜き取るのは仕入課スタッフ、並べるのは売場スタッフです。「BOOK WALL」がなければ発生しない作業なので、効率だけを追い求めていたら継続できないと思います。
並べ方は、上に文庫などの小さい本、下に大型本という大まかなルールは決めていますが、あとは無作為です。ジャンル別にもしていません。ネット書店もリアル書店も「ランキング」だったり「推し」だったりで「編集」されていますが、ここくらいは「編集なし」でいこうと思っています。
書籍編集者に、コーナーについて聞いてみた
無編集、無作為ならばこその革新的な体験もできそうなこのコーナー。その開設についてシェアする投稿で、リツイート1.1万件、「いいね」2万件の反響を記録するツイートがある。発信者は書籍編集者。ダイヤモンド社書籍編集局第一編集部の今野良介氏である。
以下今野氏に、今回のこのコーナーに関する書籍編集者としての思いをコメントしていただいた。
「わたしは本を作る編集者であり、本を読む読者でもあります。
この棚を見て、『著者やデザイナーや編集者の想いのこもった本が、毎日こんなにたくさん出ているんだな』という読者としての喜びと、『もうこんなにたくさん本があるのに、わたしがサラリーマンとして生活するためにつくる本のすべてが、本当にここに置かれるべき必要な本だと自信を持って言い切れるだろうか』という自問が同時に湧き上がりました。
書店は、書店員によって、どの本をどのように置くか、置かないかという『編集』がなされた場所です。そしてネット書店は、売れている本や自分の読書遍歴に沿った本がアルゴリズムによってプッシュされる『極端な編集』がなされた場所です。
そういう書店環境の中で、この棚は、あえて編集されていない場所だと思いました。ここに行かないと感じられないものがきっとあります。本が好きな方は、ぜひ現地に足を運んでみてください」