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「苦労しなくていい」は「みんな同じ」と同義語



ところで、ゴルフカブリオレは約30年前の車。旧型メルセデス・ベンツGクラスも最近購入したとはいえ’97年式だから、もう25年前の車だ。

古い車は故障が心配じゃないのだろうか? 

「ボクは故障とは言わないようにしてて、“不具合”です(笑)。人間も体に不具合があれば治療するじゃないですか。車も同じで不具合が起きたら直せばいい」。



それに、と土田さんは続ける。

「例えば、エンジンを冷やすためにボンネットを開けて待ちぼうけした話は、後で笑い話になりますよね(笑)。

古い車だから、行く前にエンジンオイルを変えようかとか、ラジエターに水を入れておこうとか準備が必要だけど、それ自体が楽しく思える。

むしろ何でもかんでもトラブルなくスムーズに行くと、思い出が希薄になる気がするんですよ」。

こういう思考は、旅行の仕方にも表れている。



土田さんはよく夫婦ふたりで海外を旅するが、ルールがひとつある。

それは行きの飛行機チケットだけ取って、あとは何もかも現地で決めるということ。



「例えばドイツのとある小さな村に行ったら、村でイベントが開かれていて、駅前のホテルが一杯でした。当時はスマホなんてなかったので、結局駅から1時間以上も歩いてホテルを探しました。

ほかにもシャワーがちょろちょろとしか出ないとか、ホテルの見た目から想像できないほど朝食が美味しかったりとか、実際に行ってみないとわからないことが多いんです」。



そんな旅のほうが「やっぱり鮮明に記憶に残っているんですよね」。こんな具合に、これまで世界60カ国以上旅をしている。

「最近はスマホで何でもできちゃうじゃないですか。宿の予約はもちろん、口コミを読めばシャワーがちゃんと出るかとか、朝食が美味しいかどうかもわかる。

そうやって、誰もがストレスのない旅行が出来ちゃう時代です。でもそれって逆に、記憶に残らない旅になっちゃうんじゃないかと思うんです」。



誰もが苦労しなくて済む車や旅行は、“みんな同じ経験”しかできない。

それは画一的で、むしろつまらないのではないか?という問いかけは、共感できるオーシャンズ世代もきっと多いだろう。


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