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注文仕立ての衣料品の街で創業したディーエンが真の老舗企業になるには、まだ認知度を高める努力が必要だ、と現社長で創業者の孫の夫であるジム・アータイズさんは語る。

彼によると、創業から1世紀が経っても、ポートランドにはディーエンのことを聞いたこともない人も多いという。その主な原因は、創業初期に目立った成果が上がらなかったことと、自社のスタイルやデザインへの固執だというのが、アータイズさんの見解だ。

ディーエンは、創業以来ほとんどの時期を苦境下で過ごしてきた。大学生用セーターも、優秀選手が着るロゴ入りジャケットも、ウールのチア服も、コーチ用ジャケットも、会社名の入らないラガーシャツも、ごくありふれた商品だからだ。

それでも、会社は派手な販促活動や買収で解決しようとすることはなく、あくまで堅調な経営にこだわり続けた、とアータイズさんは言う。2011年に打ち出した自社ブランド「ディーエン1920」は、社名と歴史の長さをその名に盛り込みつつ、新たな顧客層を狙ったものだ。

「今や同じような企業が多いかもしれませんが、ディーエンの面白いところは、経営者にとって事業が生計の手段でしかない点にあると思います。私たちは自社の魅力をわざわざアピールしたことが一度もありません。

精一杯頑張ってきましたが、それは子供を育てて食卓に食事を出して家を買うためであり、贅沢しようとしたことも高級層を狙ったこともありません。それは、衣料品製造という業界において簡単なことではありませんでした」とアータイズさんは語る。



ディーエンの現在の商品一覧に目を通してみよう。

男性服中心なのは変わらないものの、女性服も登場し始めている。カウルネックで鮮やかな色合いの厚地セーター、細部まで縫い上げられたペンドルトンの羊毛スタジャン、ワックスを染み込ませた丈夫なキャンパス布を用いた作業着、そして、時代が変わっても古びないストライプ柄セーター。

アータイズさんはこれらを「世代間の商品」と呼ぶ。スポーツ市場の成長に伴い、父から息子へ、祖父から孫へと受け継げるような品ということだ。

アータイズさんは「当社は流行を追いかけるようなことはしませんでした。これが私たちのやり方なのです」と続ける。「『壊れた時計でも1日に2回は正しい時刻を示す』という格言がありますね。市場は今まさに、ディーエンが取り組み続けたスタイルに戻ってきたのです。

……登場しては消えていくだけの商品もありますが、スタジャンが廃れることは決してありません。時には『不人気ではない』としかいえない時期もありましたが、それでも我々は古き良きアメリカの男性服を作って生き残ってきたのです」。



ディーエンの製造場の上の階にはマーケティング・デザイン部門のオフィスがある。白を基調とした殺風景なオフィスに掛かっているのは、過去数シーズン分のシャツやジャケットやセーターだ。デザインの大半は、創業当時からほとんど変わらない。

ショールネックセーターは昔のものとほぼ同じで、おしゃれなお年寄りなら今でも着られるだろう。ワークシャツの変化といえば、以前と変わらず懐中時計を持ち歩く人に配慮して斜めのボタン穴を加えた程度だ。

色鮮やかなジャケットなど、最新の商品には流行を重視したものもあるが、アータイズさんもディーエンも、会社を来世紀まで継続させる鍵はスタイルを変えないことだと考えている。

「これからも、新たなスタイルを模索しますし、開発も続けますが、それは永続性に目を配ったうえでのことです」とアータイズさんは言う。

「今シーズンはこれを作り、次のシーズンは別のものに移るというやり方はしたくありません。そんな余裕もないですしね。ですから、私たちが目指すのはとにかく伝統的なスタイルです。伝統に新たな解釈を加えることで、何度季節が変わっても対応できる商品になるのです」。

dehen1920.com



This article is provided by “SUiTE”. Click here for the original article.



サマンサ・バカル=文 アンソニー・ワイボニー=写真
加藤今日子=翻訳

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