アンディ・ウォーホル/ BMW M1 / 1979
ポップアートの代名詞的な存在としてあまりにも有名な、アンディ・ウォーホルが自ら塗装を手がけた4番目のアート・カー「BMW M1」は、もともとスーパー・スポーツ・カーとして人気の高いモデルだった。
「このウォーホルのモデルは、アート・カーとしてディスプレイされただけでなく、実際に79年のル・マン24時間レースに出場して、総合6位という優秀な成績を収めたことを、子どものころの記憶ながらに覚えています」
当時の興奮を懐かしむように顔をほころばせながら、遠藤は言葉を続ける。
「アート・カーとしても素晴らしいうえに、レースに出て良い成績を残してしまう。そういったアートとコンペティションが融合した、すごく稀有な存在としても、ウォーホルのモデルには個人的に思い入れがあります」
モータースポーツの世界で活躍したモデルがある一方で、量産モデルをベースにしたアート・カーも存在することは前述のとおり。そのひとつが、9番目に製作された「BMW 535i」である。
加山又造/ BMW 535i / 1990
「90年に、文化勲章の受章者である京都出身の日本画家・加山又造さんに参画いただいたのが、この『BMW 535i』です。アジア出身のアーティストによってデザインされた初のアート・カーでもあります」
加山又造が製作に使用したのは、エア・ブラシ。さらに箔を貼り付ける特殊な技法を用いて、雪の結晶からインスピレーションを得た景色を車体に描いた。どこか屏風絵を思わせる雅な仕上がりは、圧巻のひと言だ。
個性的な手法で生み出されたアート・カーとしては、95年に製作された14番目の「BMW 850CSi」も引けを取らない。
イギリスを代表するポップ・アーティストのひとり、デイヴィッド・ホックニーが手がけたこのモデルは、車を分解し、裏返してから塗装を施す、という方法で製作された。
デイヴィッド・ホックニー/ BMW 850 CSi / 1995
こうした製作のプロセスにもアーティストの思想が色濃く反映されるのが、BMWアート・カーの特徴でもある。だからこそ、アート・カーにはアーティストとのコラボレーションという枠に留まらない広がりがあるのだと、遠藤は言う。
「BMWのクルマならではの『駆けぬける歓び』という美しさ。プロダクトが持っているアートとしての存在が、素材として提供されることで、アーティストがアートそのものへの関心を持つきっかけになると考えています。
なので、単なるコラボレーション、クルマをデザインするということではなく、まったく新しい極めて異質な芸術の表現になるのが、アート・カーの特徴と言えます」
アート、デザイン、テクノロジー、さらに各国の文化的・技術的な背景といったものが混ざり合い、相互に影響し合うことで、未だかつてないアートが生み出される。そんなBMWアート・カーに対して、アート界からはどういった反響があるのだろうか。
「現代の著名なアーティストの方々、異端といわれる方々、または権威といわれる方々に、喜んで、もしくは関心を持って、参加いただいています。これまで、19人もの現代アートの綺羅星と呼べる方々に参加いただいていること自体が反響であり、同時にアート界に対して、BMWアート・カーが投げかけている挑戦でもあると思います」
第一線で活躍するビジネスパーソンにとって、ビジネスの中にアートを取り入れるという考え方は一般的になりつつある。BMWのアート・カーというプロダクトを企画し、作り上げていく過程もまたひとつのアートだと、遠藤は締め括った。
ただ運転するだけのものではなく、歓びや心の余裕をもたらし、好奇心を想起してくれるような存在。それがBMWアート・カーなのである。
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