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2022.04.16

ファッション

ベルベルジン藤原さんに聞くチャンピオン「リバースウィーブ 」の魅力とブームの理由

 

これが「リバースウィーブ」だ!


スウェットを語るのであれば、避けては通れないのがチャンピオンの「リバースウィーブ」。

絶対的な永世定番がヴィンテージ市場で今改めて脚光を浴びていると聞く。

その理由は? そして古着スウェットの面白さとは?業界きってのスウェット通、藤原 裕さんに聞いた。

そもそも「リバースウィーブ」って何!?
チャンピオンが1934年に特許を取得した製法。スウェットシャツを洗うと縮むというクレームを解決するために、縦に織っていたコットンを横向きに使用することで縦方向の縮み、つまり丈が短くなることを防いだ。今度は身幅が縮むようになるが、その点は脇身頃に伸縮性の高い「サイドアクションリブ」を挟むことで解決した。

デニム、Tシャツに続く第三勢力が古着スウェット

 

私物を提供&教えてくれた藤原 裕さん●1977年生まれ、高知県出身。日本を代表するヴィンテージショップのひとつ、ベルベルジンのディレクターを務める。デニムへの知識はもちろん、スウェットにも造詣が深く、稀少なヴィンテージアイテムを多数所有する。


ここ数年、ヴィンテージウェアの人気が過熱していることをご存じだろうか。

読者諸兄が通過したであろうヴィンテージデニムのブームはさらなる盛り上がりを見せ、レアな極上品であればクルマが買える価格での取引も珍しくない。バンドTシャツやロックTシャツのリバイバルもかつてない勢いがある。

そしてもうひとつ、忘れてはいけないのがスウェットの原点的存在「リバースウィーブ」の人気沸騰だ。

1998年のオープン以来、原宿の古着市場を牽引し続けるベルベルジンのディレクター、藤原裕さんはこう回想する。

 

「単色タグ」と呼ばれているなかでも、’70年代前半に生産されたと思われるクルーネックのスウェットシャツ。両脇に設けられたリブパネルの切り替えがリバースウィーブの証。


「チャンピオンのリバースウィーブはオープン当初から取り扱う基本アイテムのひとつ。今思えば、2000年代前半に一度、ぐっと人気の高まったタイミングがありました。

あくまで古着スウェットのいちジャンルにすぎなかったリバースウィーブのなかで、一部のヴィンテージものに注目が集まったんです。

’70年代に生産された『単色タグ』の付いたものだったり、それ以前の’60年代の『タタキタグ』だったり。チャンピオンは時代ごとにブランドネームタグの変遷がはっきりしていて、商品が製造された年代を容易に特定できます。

それがある種のわかりやすさ、とっつきやすさとなり、ヴィンテージ好きが盛り上がる一因になっているのではないでしょうか。

ベルベルジンとしては、それらの年代ものの中から、ミリタリープリントやカレッジの染み込みプリントに絞ってお客さまに提案していましたね」。

 

こちらが「単色タグ」。


そうした傾向も’00年代後半にはひとまず落ち着きを見せる。そして冒頭に述べた昨今のリバースウィーブ人気へ。これはさしずめ第2次ブームといったところか。

「3年ほど前からでしょうか。それはもう空前の盛り上がりを見せています。10年前に比べてリバースウィーブの取引価格が2倍、3倍になっていますし、この一年間だけでも高騰が著しい。

その背景には、やはり’90年代ファッションの人気の高まりがありそうです。’90年代から実に30年が経過し、当時のアイテムがヴィンテージとして扱われるようになってきました。

タグでいえば、’80年代の『トリコタグ』をはじめ、’90年代から最近まで採用されていた『刺繍タグ』のものです。

 

「刺繍タグ」のもので、プリントなしであれば胸にCのロゴが入るのが標準仕様。1次ブームでは見向きもされなかった鮮やかな色が再評価されている。


それから個人的には、リメイクブランドの影響も見逃せないと思っています。例えば、付き合いの古い友人でもある森山直樹さんがデザイナーを務める77サーカというレディスブランド。

彼はもう10年ほど前かな?世間にオーバーサイズブームが浸透する前からXL、XXLのリバースウィーブを集め、リメイク・リサイズして、レディスウェアに落とし込む、ということをやっていました。

その頃はまだ、リバースウィーブは日本人の体型にジャストでハマるMサイズが売買の中心。XL以上は売れないよね、というのが古着業界での共通認識でした。実際に買い付けでも、大きいサイズはよほど状態の良いものでなければ見送っていましたから。

そんな状況だからこそ彼はあえてビッグサイズに着目して、胸にチャンピオンのCマークが刺繍された『目付き』と呼ばれる’90年代のXL、XXLの個体を集めていたんですよ。

77サーカに限らず、リメイクブランドが提案する服が巷で流行しているなというのは僕自身も感じていましたし、そこから徐々にですよね。

若い世代が’90年代ファッションを新鮮な感覚で受け入れ始め、オーバーサイズを是とする潮流がファッション界を席巻していきました。

女性はもちろん、男性でもトップスはゆったり、ボトムスはすっきりというシルエットバランスが一気に定着した印象があります」。

 

’90年代から採用されていた「刺繍タグ」。


スウェットは、元来が動きやすさを重視するアスレチックウェアとして誕生したアイテムだけに、持ち前のリラックス感がこのトレンドと合致。さらに勢いを増したのだろう。

「ユース世代のモノマネではなく、リラックスウェアとして大きいサイズのヴィンテージスウェットを選ぶ。そんな流れがあったからこそ、リバースウィーブが幅広く大人の男性にも受け入れられたんでしょうね。

個人的には、スニーカーブームとシンクロしたことも意外に大きいのではと分析しています。足元が革靴からカジュアルなスニーカーベースになると、自然とトップスもリラックス感のあるものに、と思考を巡らせたくなる。

僕もずっと好きでリバースウィーブを着続けていますが、最近はサイズアップしてXLを選ぶようになりました。

あとはそもそも論になりますが、スウェット自体が普遍的なアイテムであり、ヴィンテージウェアの王道であること。

そのなかでワンブランド(チャンピオン)のひとつの型(リバースウィーブ)が長きにわたって愛され続けているという事実に目を向けるべきです。

チャンピオンの創業が’19年、リバースウィーブが考案されたのが’34年。デニム界におけるリーバイスもそうですが、この手のカジュアル服で100年を超える歴史を持つブランドはそう多くありません。

完成されたスタンダードな仕様がありながら、技術の進歩や時代ごとの素材調達のタイミングによって生地感や細部のパターンなどに微妙な差異が生じる。

同じ霜降りグレーでもグレーの濃淡が違ったり、’90年代の単色タグ時代はその後の年代と比べてアームが細かったり。こうしたバリエーションの豊富さがコレクター熱をくすぐる仕掛けとして機能しているのも間違いありません」。

 

「単色タグ」時代のもの(下)は、それ以降のモデル(上)と比べアームが細く、ヴィンテージ感のあるシルエットだ。



椙本裕子=写真(静物)、水野美隆(zecca)、山本 大=写真(人物) 菊池陽之介、来田拓也、松平浩市=スタイリング 加瀬友重、髙村将司、増山直樹、礒村真介(100miler)=文

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