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セルビッジデニムの風合いを活かしつつ快適性も担保するために

ファッション感度の高い大人のなかには、「デニムは綿100%主義」を掲げる人も少なくない。独特な色落ちを突き詰めるなら、それも当然。しかし、快適性はその代償となる。

昨今当たり前となったストレッチデニムは理想だが、いかんせんセルビッジデニムを織る旧式の織機は古いため、伸縮性のある機能糸に対応していなかった、これまでは。

本格的なデニムの風合いをキープしながら、快適さも担保する。その前人未到の挑戦には、当然ながら幾重もの壁が存在していた。

その壁を打破したのは、やはりカイハラとユニクロのこれまでの経験と実績、そして情熱である。



数多の検証を繰り返しながら辿り着いたのは、ストレートに近いものの、うっすらムラもある太番手の「スラブ糸」である。

糸が直線的過ぎればのっぺりとした見た目になり、太さにムラのある一般的なスラブ糸では足を通すほどに乱暴な表情を覗かせる。

そこでユニクロは両者の良さを活かすとともに欠点もカバーすべく、紡績機での撚りや張り具合を繰り返し微調整。数えきれないトライ&エラーの結果、理想の糸を生み出すことに成功した。

また、ユニクロのデニムは綿以外の糸を混成してもなお、本格的なセルビッジデニムと遜色ない色落ちを見せる。その秘密は糸の染色だ。

通常、デニムは糸の中心部に白い部分を残すことで、外側の濃紺部分の色が落ちると、独特な表情を描き出す。カイハラでは、多くのヴィンテージから導き出した最適な色味を念頭に、そこから逆算して紡績と染色を行っている。



多くの手が加えられ仕上げられた糸を、今度は旧式のシャトル織機で織っていくのだが、そのスピードは従来よりも目に見えてゆっくり。結果、24時間フル稼働させても、織れる生地は120mほどだという。

生産効率は明らかに悪く、全自動データ管理ではないため、不具合も生じやすい。つまり、専属技師が常に目を光らせなければならない。

それだけ手間暇をかけてもなおその製法にこだわるのは、往年のハリ感を携えつつ、快適なはき心地を担保し、いい色落ちまで期待できる生地を作りたいからだ。

ストレッチセルビッジスリムフィットデニム3990円/ユニクロ(ユニクロ 0120-170-296)

ユニクロが誇る定番デニム「ストレッチセルビッジスリムフィットデニム」3990円/ユニクロ 0120-170-296


そうして出来上がったデニムは、赤耳付きの本格デニムの様相ながらストレッチ性も確保。ポケットをやや高めに設定することで目線を上げ、脚長効果も生み出している。

それでいて3990円というプライスを実現しているのだから、もはやそのパフォーマンスは圧倒的だ。

「デニムは楽じゃない」だなんて固定概念に縛られ、みすみす魅力的なデニムとの出合いを放棄してはいてはもったいない。

革新的テクノロジーと伝統技術の融合によって実現したジャパンメイドのユニクロデニムは、これまでの凝り固まった考えをゆっくりと解きほぐしてくれるはずだ。


「世界最高峰! 日本デニムの今」とは……
「デニムと言えばアメリカ」。かつてのヴィンテージブームを経験した人たちはそんな先入観を持ちがち。しかし今、世界を見てみると、プロはこう口を揃える。「デニムと言えば日本」。なんで? 方々から探る、世界最高峰、日本デニムの今。
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菊地 亮=取材・文

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