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加藤雅也さん「たとえ50歳を過ぎても、考え方ひとつで自分は変えられる」
知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。
昨年、俳優デビュー30周年の節目を迎えた加藤雅也。横浜随一の飲屋街・野毛を舞台にした最新の主演映画『影に抱かれて眠れ』では加藤の魅力がたっぷりと味わえる。原作は北方謙三。主題歌はクレイジーケンバンド。両雄が支えるハードボイルド作品で、加藤は酒場を経営する画家であり、裏社会の抗争に巻き込まれていく冬樹を演じる。
「北方先生に言われたのは『硲は自分を取り巻く環境や運命を受け入れる男』ということだけ。あとは原作や脚本を読んで自分なりに人物像を考えました。幼少期に置き去りにされて母親を知らないんじゃないか。だから画家になって母親を描こうとするけれど、顔を知らないから抽象画になってしまうんじゃないか、とかね」。
独自の解釈で役を掘り下げていくなかで、いつしか加藤のなかに硲の凄みが浮かび上がってきたという。
「命を軽く扱う連中を前にしても怯まないのはなぜか。母の愛情を知らずに生きてきた過程で、自身の死さえも受け入れられる過酷な経験をしたのではないか。喧嘩が強いといったレベルの話じゃない。そんな得体の知れない男の佇まいや哀愁を漂わせたいと思いましたね」。
豊富なキャリアを持つからこその細やかな役作りが、硲を魅力的な男にする。だがモデル出身の加藤にとって、俳優になってからの30年間は演技に対する試行錯誤の日々だった。
「役者としての基礎を持たないところからのスタートですからね。国内外の演技論の本を読んだり、海外に行って勉強もしてきましたが、ようやくここ数年で“こういうことかな”と思えるようになりました。結局、自分の演技論を見つけるしかないんですよね。それに、絶えず演じることが大切。休むと身体も感度も鈍るんです。今はできるだけオンの状態でいることを心がけています」。
納得しうる演技への瞬発力を支える“オン”の状態にいるために、新しいことへの挑戦を大切にしている。新しい挑戦は失敗が隣り合わせで常に緊張を強いられ、その緊張感が精神を研ぎ澄ますことになる。
「それまで苦手だと思って避けていた舞台に45歳で挑戦し、50歳でラジオのパーソナリティを始めました。最初は緊張しましたが今ではどちらも楽しいですね。“俺ってこうなんだ”と自分で枠を決めてしまうと視野が狭くなる。考え方ひとつで自分は変えられるんです。といっても、そんな大袈裟に考えなくていい。若い頃に似合わないと思っていた色の服を着てみるとか。それが意外と似合っていたりすると、自分の新しい一面を発見できるじゃないですか」。
苦手なことで自分を磨く。それが大人の挑戦なのかもしれない。
『影に抱かれて眠れ』 監督:和泉聖治/出演:加藤雅也、中村ゆり、松本利夫、カトウシンスケ、熊切あさ美、若旦那、余 貴美子、火野正平、AK-69ほか/配給:BS-TBS/9月6日(金)より丸の内TOEI2、横浜ブルク13ほかにて全国ロードショー
http://kagedaka.jp 神奈川県横浜市で酒場を経営する画家、硲冬樹。ある日、彼を慕う若者、信治が怪我を負い転がり込んでくる。信治は夜の街に生きる女たちを救おうとして窮地に立たされていた。横浜の下町を舞台に男たちのドラマが展開する。
PAK OK SUN(CUBE)=写真 最知明日香=ヘアメイク 村尾泰郎=取材・文 BLACK SIGN=衣装協力