農的な暮らしで気づいたコミュニティの大切さ
真鍋さんにとって、農業は生業であると同時にライフスタイルでもある。とりわけ惹かれているのが持続可能な農的暮らしだ。
人間は資源がなければ生きていくことができない。しかし、今生きていくための需要を満たしつつ、将来世代の需要を確保するには、自然が再生する時間も考慮しなければならない。持続可能な社会という理念はそこから生まれた。
真鍋さんが有機農業にこだわるのは、こうした農的な暮らしを実践しようとしているからであり、自然に沿って生きていきたいという思いがあるからだ。とはいえ、農業は理想通りにはいかない。
「農業はタイミングが重要で、植え付けの時期が少しずれただけでも収穫に大きく影響する。自分なりに勉強したんですけど、全然うまくいかない。野菜がまったく作れない時期もありました。今もまだまだ模索中です」。
今の暮らしを始めて実感したことがある。それはコミュニティの重要性だ。
「以前は東京が何でもあるし、一番豊かだと思っていました。でも今はここの暮らしのほうが豊かだと実感しています。例えば、こんな山奥にこだわりの天然酵母パン屋さんがあったり、醤油まで手作りをしている人がいたりする。そしてそのパンや醤油を、お金を介さずに自分が作った野菜や地域通貨で手にすることができる。丁寧に作られた『本物』たちが、コミュニティの中で循環する環境に、充足感を持っています」。
真鍋さんは今、新しい試みに挑戦しようとしている。それが、真鍋流農園のホームページに案内がある「エスケープ農場」だ。そこには自身の家族や友人の死をきっかけに、生きる希望を失った人に何かしたいという、真鍋さんの思いがあった。
「自分もそうだったんですが、生きるのが苦しいと感じている人はたくさんいます。生きることをやめる前に、まずは逃げ出してほしい。逃げることが難しくても、せめて環境を変えてほしい。今のその苦しみや状況は必ず移り変わっていきます。そんなメッセージを届けたくて、私の畑へ逃げてきませんか? と『エスケープ農場』を提案しました」。
月に数回、真鍋さんは東京に野菜を売りにやってくる。取材後、購入した野菜を、塩とオリーブオイルをかけ、食べてみた。大地の味がするカブは新鮮で、甘かった。
【取材協力】アフターアワーズ2005 住所:東京都杉並区高円寺北3-21-20http://www.afterhours-2005.com/ 藤野ゆり(清談社)=取材・文