OCEANS

SHARE


原因は検証不可能。過去10年以上、健康診断を拒み続けた理由




実は、脳梗塞で倒れるまでの過去10年以上、ダースレイダーは健康診断を一切受けていなかった。それには彼なりの理由がある。

ダースレイダーの父は朝日新聞の記者で、コメンテーターとして度々テレビにも出演する著名なジャーナリストだった。しかしダースレイダーが大学在学中にアルバムデビューを果たした頃、父の喉に腫瘍が見つかる。

「父親はコメンテーターもしていたので、喉への負担が少ない治療法を自分で探し、札幌の病院に入院しました。入院するほど進行していたわけじゃなかったんですけど、早期発見でうまく治療すれば仕事に支障がないところまで回復できると見込んでいたんです。

でも結局、治療は後手後手にまわって肺炎を併発。父はあっという間に亡くなってしまいました。僕は医者の対応が今も信用できていなくて、『病院に行ってなかったら父はまだしばらく生きていたんじゃないか』という思いを持つようになった。まぁ、病院不信ですね。それからは一切、自分でも健康診断を受けるのをやめてしまいました」。

以来、ダースレイダーは自分の健康にも無頓着に。だからこそ肩凝りは疲れが原因だと勝手に判断したし、倒れたときにも自分の身体に何が起こったのかわからなかった。

脳梗塞の原因は、内科や脳神経科で意見が分かれたという。遺伝性を疑っても父親は他界。母親もダースレイダーが15歳のときに亡くなっていたため、調査ができない。健康診断も受けていないから過去のデータもなく、原因の検証などしようもなかったのだ。


脳梗塞の合併症で左目を失明。さらには「余命5年」の宣告




脳梗塞の治療で入院中、ダースレイダーは自分の身体とようやく向き合うことになる。検査では糖尿病に罹患していることも発覚し、その悪化に伴い、左目が視野欠損を起こしてしまった。つまり、失明である。

ただ、ダースレイダーを襲う病はそれだけでは終わらなかった。

退院してからも定期的に内科、脳神経外科、眼科の検診を続けたが、腎臓の数値が悪化し始め、2017年、ついに医者から告げられたのだ。

「このまま何も手を打たなければ、余命はあと5年といったところです」。

普通であれば、生きる気力まで奪われてしまいそうなほどノンストップで迫りくる病の数々。40歳という若さで告げられた、わずか5年という余命。

しかし自身の状況を語るダースレイダーは至って冷静で、悲壮感もない。怖くないのだろうか?

「まぁ僕も暗い気持ちにはなるし、落ち込みますよ(笑)。起きたら全部夢だったってことにならないかなぁって思ったり。でも、くよくよして解決するならくよくよするけど、それで良くなることはないですからね。どうやったらこの問題をクリアできるのかをゲーム感覚で捉えているのかもしれませんね」。

後編では、リアルな死と向き合って得た独自の「死生観」と、彼の右目を通して見たオーシャンズ世代たちの生き方についても話をうかがう。

〈後編に続く〉


ダースレイダー●1977年フランス・パリ生まれ、イギリス・ロンドン育ち。吉田正樹事務所所属。大学在学中にラッパーデビュー。現在は自らのバンド「ザ ベーソンズ」で活動するほか、司会業や執筆業など、様々な分野で活躍を続ける。自身の闘病体験を赤裸々に綴った自伝『ダースレイダー自伝 NO拘束』(ライスプレス)も絶賛発売中。

 

ジョー横溝=取材 池本史彦=写真 ぎぎまき=文

SHARE

次の記事を読み込んでいます。