父は生徒、娘は師匠。ウクレレで近づいた親子の距離
やがてウクレレは、父と娘の架け橋になっていく。家族の誕生日、クリスマス。何かの記念日には必ず、部屋の明かりを落として、親子でのセッションを行うようになった。
真宏さん「誕生日には、親子で『ハッピーバースデー』を弾いてます。難易度の高い曲ではないですが、祝った相手はすごく喜んでくれる。ウクレレをやってよかったと実感する瞬間です」。
ウクレレといえばハワイアンのイメージだが、実際には邦楽・洋楽問わず、他ジャンルのアレンジ曲も楽しめる。童謡からヒットソングまでさまざまなので、世代を超えてセッションできるのだ。
ことこちゃん「今までのパパは、家にいてもずーっと仕事してるイメージでした」。
そんな一言に、真宏さんも「確かに24時間仕事してたもんね」と冗談交じりに頷く。
真宏さん「うちはもともと私以外、音楽一家だったんです。妻とことこの兄はバイオリン、妻と姉はピアノをやっていて。私だけが音楽と縁遠い存在だったので、蚊帳の外で黙々と仕事してました。やっとそこに仲間入りできたのかな(笑)」。
いまやことこちゃんは、真宏さんにとって良き師匠だ。うまく弾けなかったらアドバイスを求めたり、演奏を見よう見まねで参考にしたりする。どうやら娘のほうがキャリアもあれば、センスもあるのかもしれない。ことこちゃんは、ウクレレをやるまで気づかなかったパパの意外な一面を教えてくれた。
ことこちゃん「パパはなんでもできるって思ってたから……。なんか、意外と不器用なんだなって思いました(笑)」。
緑いっぱいの庭先に親子の笑いが弾けた。
仲睦まじき親子セッション
最後に神田さん親子は、芝生の上に椅子を並べてセッションを披露してくれた。おだやかに降り注ぐ日差しのなか、ポロロン、という弦の音。やがてそれはメロディを奏で、ひとつの曲へと変わっていく。
演奏でつまずいてしまったのは、父だった。でも、それにアドバイスする娘の姿が、なんだか微笑ましい。
真宏さん「父だから“影練”して娘を追い抜くぞ、なんてことはありませんね。ウクレレはマイペースに、リラックスして楽しむものと考えられていますから」。
うまくても、下手でもいい。そこに競争は存在しない。親子横並びになって奏でるウクレレの音色は、今日も庭先をのんびりと流れていく。
佐藤宇紘=取材・文