あてのない長時間動画を配信する理由
ライブ配信するYouTube動画は2時間を超えるものもざらで、「5分で分かる!」「SNS動画は2分以内に」「一日に10万再生回数を叩き出せ」といった部類のマーケティング戦略は、彼には意味をなさない。
「僕のYouTubeには台本とかアジェンダはありません。一般的には尺を決めて、話す内容を決めて臨みますよね。でも僕は、言うべきことが出尽くしたあとに始まるものが面白いと思っていて、その人からふいに漏れ出す素の部分に知的好奇心を感じるんです」。
脱線することを前提にしている対談は、3時間を超えても何の結論に至らないこともあるという。
「暖炉の前に座って、コーヒーやワインを飲みながら対話しているイメージですね。ライブのセッションと同じ。即興でやるからテーマからどんどん変わっていくし、脱線する余裕が次第に心地良いグルーヴを生み出す。それを面白がってくれる人もいて、長時間でも視聴してくれる人が意外と多いんです」。
数値化された世界からの解放
マーケティングやコスパという言葉に代表される損得勘定があふれる世界に、強い意思を持って抗っているダースレイダー。
12月に出版したばかりの新著『武器としてのヒップホップ』は「さて、どう生きようか」の一文から始まる。テーマの主軸は、合理性や秩序を前提とした、数値化された世界から自分を解放する術としてのヒップホップだ。
「このルートで行けばここに何時までに着いて、食べログ4.0のお店でディナーする。それがうまくいけば今日の幸福度は78点です、みたいな(笑)。コスパを勘定するデートプランがまさにいい例ですが、AIが実装されればされるほど、数字に収斂される世界が加速していくわけですよね。
僕はそこから脱線したところにしか人間性は確保できないと思っていて、だから計算可能な外側にあるものに出会うために、アジェンダのない対談をするし、人生もプランを立てないようにしています」。
では、いよいよ迎える“あの日”についてどう感じているのか?
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