「『逃げる』を1つの選択肢として用意しておきました。僕みたいな職種に限らず、重圧を感じる人って、自分しかその仕事ができないんじゃないかと考えがちですけど、『あれ?自分がいなくても世の中回ってるぞ!』って思えたら、楽になる。それはそれで悔しいと思うこともあるけれど、自分がいなくても大丈夫なら、いる時はもっと楽にやれるじゃないですか。替えなんていっぱいいると思えば、気軽にできる」。
実家で口を開けば「死」を口にして場の空気を重くしていた武田に、父方の大叔父は言った。「死んだら、死ぬほど時間があるから、死んだ後のことは、死んでから考えろ」。
「すばらしい大叔父でしたね。がさつで、デリカシーがなくて。やたらでかい声で『おめぇ、そんなこと考えてんのかあ!」って(笑)。でも言ってることは正しい。哲学者のような人でした」。
筋トレは「人生の帳尻合わせ」
武田は2018年、NHK Eテレ『みんなで筋肉体操』でいわゆる“再ブレイク”を果たした。40代半ばにもかかわらず美しく鍛えあげられた肉体に、「フェミ男」の印象で止まっていた視聴者は驚いたが、実は武田は28歳の時から人知れず筋トレを続けていた。
きっかけは先ほどの顎関節症。顎だけに負担が集中しないよう、全身に筋肉をつけよという鍼灸の先生からの指導だった。それだけに、著書にはフィジカルを整えることについての「言葉」も多い。
「筋トレでなんでも乗り越えられる」
「見せかけの筋肉なんてない! 自信をもって鍛えていい! 筋肉は実力だ!」
「体を鍛えることと鍛えた気になることは別だ」
武田は肉体を誇示するために筋トレをしているわけではない。実際、筋トレのことは、2014年に初の著書『優雅な肉体が最高の復讐である。』を上梓するまで、ほとんど公言していなかったし、俳優としての“売り”にもしてこなかった。
「筋トレは自分の精神向上のためにと思って続けてたんですけど、ある種の帳尻合わせでもあるんです。僕、20代前半で大人に担いでもらって歩を進めた人生と、実際の人生との間に差がつきすぎていたんですよ。その、担がれて楽(らく)した分を、自分の足のジョギングで埋めなきゃいけなかった。その埋める作業が筋トレだったと思います」。
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