ローカル生産が生み出した新たなプロジェクト
先にサンドラさんが言葉にしたとおり、持続可能な服作りに直接結びつく要素は、ずばり素材だ。ブランドとしては’25年までに、100%サステイナブルな素材でコレクションを構成することを目標としている。
とはいっても、何をもってサステイナブルな素材とするかはそれぞれの価値観がある。ナヌーシュカが重要視しているのは動物福祉の視点。ファー、羽毛、エキゾチックレザー、アンゴラ、モヘア、毛皮や革を利用するだけの目的で殺された動物の皮、動物由来成分を含む溶剤や接着剤。これらの素材は使用しない。サンドラさんは明言する。
「動物を傷つけて新しい何かを生み出す。そんなビジネスはしたくありません。個人的なことですが、愛犬のジニーを連れて散歩やハイキングに出かけ、自然の中で過ごす多くの時間こそ、創造力にインスピレーションを与えてくれるのですから。
もちろんリサイクル素材も重視しています。この素材こそ、大量生産と繊維廃棄物の負の連鎖を止める最初のステップとなるものです」。
そして服そのものを作る素材はもちろん、包装や資材についても再生可能素材の使用を進めている。オンライン販売用のパッケージは、植物ベースで堆肥化可能なTIPA社(※2)のポリパックに切り替えた。
また下げ札、値札やお礼状などはすべて再生紙を使用する。壊れやすいセラミック商品を出荷するときの緩衝材には、こちらも堆肥化可能な充填チップを採用している。
また服に縫い付けられているブランドタグやサイズラベルの原料は、100%リサイクルポリエステル。そして店舗で使用するハンガーはリサイクル可能なプラスチック製である。
意識的にローカル生産に取り組んでいる点にも注目したい。製品の80%以上を、本社のあるブダペストから300km圏内で生産している。
「ほとんどがハンガリー、もしくは近隣のヨーロッパ諸国で生産しています。輸送による負担を軽減することが大きな目的ですが、服作りにおいては、距離的にも心理的にも工場と緊密な関係を保つことが重要だと考えています」。
ローカル生産の考え方は新たなプロジェクトも生み出した。工芸品のワークショップなどを運営する地元のノハスタジオと共同で、ブランドのアクセサリーをプラスチック製から手作りのセラミック(磁器)製に切り替えたのである。
アクセサリー製作の工房はテレーニという小さな村にある。ブダペストから北に約90km、スロバキア国境に近い山間の村だ。ここでは8人の女性が働いている。工芸コミュニティへの支援と雇用機会の創出。でも、そんなふうに堅い言葉に変換する必要はないのかもしれない。
このエピソードを聞けば誰もが「素敵なことだ」と思う。そんな率直な共感こそ、サステイナブルな社会を実現するための第一歩だからだ。
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