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2021.11.17

あそぶ

スノーボードメーカー「ゲンテンスティック」創設者・玉井太朗に聞く“道具のハナシ”

多くのスノーボーダーは、「ゲンテンスティック」に特別なものを感じている。しかし、それらを言語化するのは非常に難しい。たとえるなら教養や気高さ、とでも言いたくなるような質感だ。
なぜこのような魅力を感じるのか。その創設者である玉井太朗に話を伺った。
▶︎前編はこちら

使う側の理想、作る側の熱意と葛藤

ゲンテンスティックの本拠地。建物の1階はショールームとチューニングルーム、バックヤード。2階にはカフェとギャラリースペースが設けられる。実際にスノーボードを製造するのは国内外の専門工場。ここでは基本的なデザインやシェイプの決定、カルチャーの発信が行われる。
ゲンテンスティックには大量生産で画一的に作り上げたものにはない、どっしりとした厚みのような手応えがある。
「そう感じる人はいるだろうね。それを受け止めてくれてる人がいることも、ありがたく思ってる」。
[検品台]工場と綿密な打ち合わせをするためには、工場と同じ精度の計測環境が必要になる。金属は温度によって変形が生じるため、台は厚さ40mmの御影石に鏡面仕上げを施して製作。
ゲンテンスティックには玉井のスノーボーダーとしての経験や考え方が落とし込まれている。そのゴールは、スノーボードカルチャーが健やかに育っていくことだ。これは、無欲の理想に向かうための乗り物だ。
そして、その乗り物のキャラクターを決定づけるのが形、つまりシェイプだ。
[チューニング台]ショールームに併設されているチューニングルーム。左右のエッジのバランスなどを見るため、板を置く台は部屋の中央にセットされている。
「シェイプを出すのは簡単じゃない。理詰めでどうにかなるもんじゃないし、一朝一夕でできるもんじゃない。けど、それは物事にきちんと向かい合っていれば自然に見えてくる」。
玉井は時間をかけてシェイプを見極める。そうやって生み出されたシェイプはプロダクトとして、確かな技術を持った職人が、専門の工場で製品にする。玉井太朗がスノーボードメーカーでありながらシェイパーと呼ばれるのはこうした背景からだ。
しかし玉井は言う。「出荷状態のゲンテンスティックは完成品じゃないんだよ」。
ゲンテンスティックの主要モデルが展示されるショールーム。板はもちろん、Tシャツやトートバッグといったグッズ類、スノーボード関連の書籍なども販売。
スノーボードで言えば、滑り手ごとに使い方は違う。マスプロダクトで、すべての人に完璧にフィットさせることは難しい。
玉井はそのことに真摯に向き合っている。だからこそ、上質な基本性能と、柔軟性に満ちた伸びしろが重要になるのだ。

揺るぎない、美しい基本性能は与えた。洗練されたシェイプ。滑り手の喜びを加速させ、スノーボーディングをさらに豊かにする乗り心地。あんな遊び方もあった、こんな乗り方もあったと、次々に新しい扉が開いていく高揚感。そうしたものはきちんと込めた。
そのうえで、「スノーボードはエッジをチューニングすることで乗り味を調整することできる。ゲンテンスティックは、その部分にカスタマイズの余白を残してるんだよ。
俺にとっては、いじれることが大事。いじれないものはどこかで妥協しないといけないから」。

言われてみればたしかにそうだ。車、カメラ、オーディオ、釣り竿、スノーボード。玉井はあらゆるモノを、道具を、自分に合わせてカスタマイズする。
そうして自分にフィットさせながら、そのモノとのつき合いを楽しんでいるのだ。
ショールームに併設された玉井の仕事部屋。真空管アンプとレコードが生み出す、オーガニックな音が流れている。虚飾を感じさせるものが何ひとつない空間。玉井はここで、純粋なクリエイティブに向き合っている。
玉井太朗●1962年生まれ、東京都出身。北海道ニセコ在住。幼少の頃よりスキーに親しみ、サーフィンを経験。やがてスノーボードに巡り合い、競技者を経て’98年に「ゲンテンスティック」を創業。 www.gentemstick.com
二木亜矢子=写真 林 拓郎=文 加瀬友重=編集


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