半世紀以上前の古着から最新のものまで、古今東西のアウトドアブランド製品に触れてきたノンネイティブ デザイナーの藤井隆行さん。
最先端の機能素材を取り入れた服、街と自然の架け橋となる服を突き詰め、それをファッションとして表現してきたパイオニアである。
まずはブランドとテクノロジーとの距離感についてから話を進めたいと思うが、ノンネイティブの洋服を見て、ふと気付いたことがある。ハイテク素材の代名詞「ゴアテックス」を使っていながら、縫い目を省いた圧着処理や止水ジップなど、技術が可視化されたディテールはほとんど見当たらないのだ。その理由を藤井さんはこう語る。
「単純にそのほうが洋服らしいと思うんです。もちろん、無縫製の技術はすごいですよ。縫製の糸すら重いという考え方で、刺繍も避けてプリントにする。
でも、あれはギアとしての追求であり、科学の世界の話ですよね。僕らが作る服はファッションなので、『ゴアテックス』を採用しても必ず縫製しています」。
先端技術を使っていながら、あえて従来の手法で仕上げていくことにより、日常着としての見栄えを良くするのが狙いだ。
「例えば、最近の車でサイドミラーをカメラで代用しているものがあるじゃないですか?この前乗る機会があったのですが、やっぱりカメラだと不安なんですよ。
自分の目で、ミラーで確認したい。僕にとって最高なのは、外見はクラシックなのに中身が最新仕様で快適に乗れる、ハイテクと実用性が共存したクルマ。洋服のクリエイションにおいても同じ感覚なんです」。
機能性は本格ギアに匹敵する洋服。だが優先すべきはスペックの誇示よりも街の生活に馴染むこと。このスタンスで藤井さんはファッションとしての「ゴアテックス」の可能性を拓いてきた。
それは2008年にノンネイティブが初めて「ゴアテックス」を採用したときから変わらない。実際に彼が当時、そのビジョンを計画書にまとめて日本ゴア社に提出していることからも明らかだ。
芹澤信次=写真(人物) 永瀬 歩=写真(取材) 菊池陽之介=スタイリング 竹井 温(&’s management)=ヘアメイク 今野 壘=文