大きな転機となったアートギャラリーへの所属
大きな転機は’17年に訪れた。「Tシャツやグッズではなくて絵が売れる。明らかにそうなったのは’17年に現代美術作家の作品を多く扱う東京・原宿のギャラリーターゲットで個展をしてからです。
以来、サーフィンや横乗り文化に興味のある人に加え、アートコレクターにも作品を見てもらえるようになりました」。
作家性を守ってもくれる。
「今問題になっている転売などを防ぐシステムも構築してくれています。例えば10万円の作品が売れたとして、多くの場合では半分がギャラリーに入り、残りが僕へ。制作経費などを引くと手元に残るのは数万円というのが実情です。それなのに100万円を超える価格で転売されていたりする。
欲しいと思ってくれる人に届かず、儲け目的の人に作品が渡ることが少なくない。こうした悲しい状況から僕と付き合いのあるギャラリーは作家とファンを守ろうとしてくれています」。
香港での個展をオーガナイズしたオール・ライツ・リザーブドはアート作品の真偽認証を行い、ブロックチェーンを使い追跡を行うコンテンツ「FWENCLUB」を立ち上げた。それは二次販売サイトなどで横行する転売や偽造販売を防ぐもの。
花井さんは「とてもありがたい」と言ったが、グリーンルームフェスティバルでの売り上げは環境保護団体に寄付しているように彼は儲けを第一の目的で創作していない。作品が不当に扱われることには憤りをおぼえ、展覧会を開くたびに感じていた懸案が消える可能性に安堵している。
いざ、アートシーンへ。その可能性は未知数である
人とのつながりを大切にし、つながった人たちの思いに報いるためにも自分を高める仕事を意識的に選び、関わった仕事には誠意を込めて向き合う。自分なりの流儀を貫くことで、始まりはサーフィンとその周辺だったが、審美眼を持ってしっかりと評価されるステージにいたった。
新しい挑戦への意欲があるのは言うまでもない。ただ、「絵を描き食べていけるかどうかはそれほど重要ではなく、売れなくなってもほかの仕事をしながら何か描いていると思います」と肩の力が抜けている。
本質的に絵を描くことが好きなのだから、それは本音なのだろう。
とはいえ作家の道は望んでいた道。駆け出しの頃から思い描いていた世界を前に勝負どころなのは承知している。周囲も放っておかない。事実、香港の個展に向けて創作された20点は完売。それらはコロナ禍の不安定な日々を過ごす中で生まれた現代的な視点を有し、「今、何と向き合うべきか」と自問し描かれた。
そして冒頭の作品「目の前にいる犬か、海の中にポツンといる状況にか」という設定などは、鑑賞者に「家族か、社会にか」といった問いを投げかける。
十分なアート性を孕む作品を揃えた個展は見事に成功。前途洋洋の花井さんはアートシーンのとば口に立ったにすぎず、今後の評価のほどは未知数だ。それでも「この前、地元の酒店『根岸商店』のTシャツを作ったんですよ」と、ニヤッとしながら教えてくれる。
現代アーティスト花井祐介、絶好調なのである。
THE SEAWARD TRIPのPodcastスタート!毎週金曜の21時配信。本稿に収まりきらなかったエピソードを音声にてお届けします。音声配信アプリ「
Artistspoken」をダウンロードして、ビーチカルチャーの第一線で活躍する人たちの物語をお楽しみください。
小山内 隆=編集・文