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イプシロンSがめざす、新しい宇宙輸送の道

5号機と並行し、次なる大きな進歩としてイプシロンSの開発も進めている。昨年3月に発足した「イプシロンSロケットプロジェクト」は、H3ロケットと技術を共有化することが特徴のひとつで、井元も「H3とのシナジー効果を発揮できれば、国際競争力を高めることができる」と話す。

「もうひとつの特徴は民間移管で、民間の優れた部分を活用し、そこにJAXAの経験や知識を注入します。例えば、低コスト化が目下の課題ですが、同じ設計でも製造に工夫を加えることで価格を下げることができるかもしれない。このような民間とのタッグは、ロケット開発にいい未来をもたらすと思っています」。

今後、衛星打ち上げの流れは、より大きな衛星とより小さな衛星で二極化すると言われている。

「今回の革新的衛星技術実証2号機では、高等専門学校が関わったキューブサットも搭載します。もしかすると、今後は中学生が開発した衛星も登場するかもしれない。そういう小型化の流れにイプシロンSを順応させることで、これから生まれる衛星をどんどん宇宙に届けていきたいと考えています」。
全国10校の高等専門学校が連携して開発した、木星電波観測技術実証衛星KOSEN-1。
ロケット開発は柔軟な発想力が必要だが、井元には大切にしていることがある。

「できない、とは考えないことです。『これはできない』『あれはできない』と考える人はたくさんいますが、私は『あれもできるのでは』『これもできる』と考えるように心がけています。

これは研究という分野の話だけではなく、どの世界でも同じなのではないでしょうか。いろんな発想があるなかで、できることを考えたほうが楽しいですし、可能性は無限にありますから」。 
 

プロジェクトマネジメントに大切なこと

井元がプロジェクトマネージャに着任してから4年。マネジメントをするうえで心がけていることに、「モチベーションを高く維持すること」と答える。

「ロケット開発はものすごく大変です。人が足りないなかで、高度なことをたくさんやらなければならず、必然的に個々のレベルの高さも求められます。そして一番大切にしないといけないことに、モチベーションを高く保つことがあると思います。

『イプシロンの開発をしているんだ』という誇りや情熱をもつことが必要であり、そのためにも『イプシロンはいいロケットで、もっとよくしていくんだ』という強い気持ちが、モチベーションにつながると信じています」。
イプシロンロケット4号機の打ち上げが成功したときの管制室の様子。
さらに、「肉体的にも精神的にもすごく疲れるけれど、打ち上げが成功したときの喜びはものすごく大きく、これはなかなか形容できない大きな感動になります。若い開発者たちにはこの体験をしてもらいたいですね」と続けた。

実は、サブマネージャ時代もプロジェクトマネージャのつもりで行動していたという井元。「その立場で出来ていたかは別として、私がプロジェクトマネージャだというマインドで仕事を進め、常にそれくらいの仕事をするんだと思っていました」と振り返る。

それゆえ、チームのメンバーに求めるレベルも必然的に大きくなる。しかしそれは、ロケット開発の難しさを誰よりも理解しているからだ。

「それぞれがいい仕事をして、はじめてロケットを飛ばすことができます。その過程は疲れるかもしれないけれど、常に高みをめざして仕事をしてほしい。それはチームのためにもなるし、結果として本人のためになると思っています」。

では、プロジェクトの長として、いつも心がけていることはなんだろうか。

「人にはそれぞれの常識がありますよね。相手と接するとき、その人がまずはどんな常識を持っているのか、どんな考え方をするのかを知るようにします。対企業であっても同じです。それはこれまで幾度も痛い経験をしてきているからで(笑)。

なぜズレが生じてしまうのかと考えると、やはりそもそもの常識のベースが違うからなのです。いろいろなタイプの価値観に合わせ、相手が納得するようなコミュニケーションを選ぶこと。これは社会においても大切なことではないでしょうか」。
ロケットの開発現場の様子。さまざまな人が関わっている(写真はイプシロン4号機)


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