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2021.12.05

ファッション

【ハワイからの視点】服や身に着けるものが与える、自分や周りへの影響とは

当記事は「FLUX」の提供記事です。元記事はこちら

Enclothed Cognition =着衣認知理論、として着るものが本人の考え方や行動に影響を与える心理学的側面の研究が進んでいる。ハワイ大学の教授の説明とともにハワイで生きる人の装いとそれぞれの衣服への思いは興味深く、ファッションの役割について考えさせられる。
人間は古代から、身に着けるものを権力や威光を伝える道具として活用してきた。ハワイでも、王が纏う羽根飾り「ナ・フル・アリイ」は単なる装飾品ではなく、地位、血筋、そして支配者としての権利を知らしめる役割を果たしていた。
例えば、ハワイ島の伝説的なアリイ(王)、リロラ王が纏っていた「カーエイ」は、3メートル弱もの長さがある飾り帯だ。表も裏も朱色と黄金色の羽根でふんだんに覆われている。イイヴィ(ベニハワイミツスイという鳥)の首と翼から慎重に引き抜いた羽根を数千枚、布地に縫い付けて作るのだ。
さらに、貴重でつかまえにくい鳥オーオー(ミツスイドリ)の黄色い羽根も使って、端のほうに横縞もあしらってある。縞模様の片側に沿ってきれいに並んでいる飾りは、人間の歯だ。この羽根と歯の飾り帯は権力の証明であり、君主だけが身に着けることができた。歯には、先祖や死んでいった戦士たちのマナ(神秘的な力)が宿っていたのだった。
近年では、装いには心理学的役割もあることがわかっている。「着衣理論」といわれる研究によれば、着ている衣服が本人の考え方や行動に影響を与えることもあるという。
「衣服はシグナルとなって、周囲にいる人に、そして自分自身に対しても、意味を伝えているのです」と、ハワイ大学マノア校の心理学助教ジョニ・ササキが説明する。
「装いはその人自身について語るという観点から、人は装いに対して実に深い意味を見つけます。個人としてどんな人間であるかというだけでなく、取り囲むコミュニティとの結びつきにおいて自分がどんな存在であるかということも、装いに表れると考えるのです」。
ホノルルのコミュニティで生きる人々がエンパワーメントの源として纏っている装いを、写真とともに紹介しよう。

ブラッドレー・レア
ヴィンテージショップ「バリオ・ヴィンテージ」オーナー
→ 身に着けているもの:1970年代に米袋で作られたキモノ
「とびきりオリジナルなものだけをクローゼットに増やし続けたい。歴史の一時期に大切な役割を果たしていたアイテムをね。大昔に誰かが愛用していた服が特に好きなんだ。
このキモノも、まさにそうなんだよ。’70年代に米袋をリサイクルして作ったもので、当時そこそこ流行ったトレンドだった。同じのを上手に再現した服も売られているけど、オリジナルを着るっていうところに、何にも代えがたい魅力があるんだよ」。

ココア・シャンデリア
エンターテイナー
→ 身に着けているもの:ステージ上のペルソナ
「ココア・シャンデリアはエンパワーメントそのものなの。大胆で、勇敢で、生意気で、きわどくて。憧れられる存在になりたいなんて思ったことはないけど、自分にとっての真実に沿って生きていれば、自分らしくしているだけで、人から尊重してもらえる。
あたしのマナは、周りにいる人たちのおかげね。みんなの手を借りて、今のココア・シャンデリアが作られてきたのよ」。

ジョン・コガ
アーティスト
→ 身に着けているもの:ふだんの作業着
「スポルティングハウス(かつてのホノルル美術館別館)のアートインストーラーとして働いていたとき、これとまったく同じ服を着ていた。これがいちばん働きやすかったから。
そうしたらいつの間にか、この格好イコール僕、っていうことになっていったんだ。意識的に自己ブランディングをしたつもりはなかったけど、周囲にとっては服と僕とが結びついていたらしいよ」。
2/2

アラ・レイロ
クラウドベースの放送局NMGネットワーク クリエイティブディレクター
→ 身に着けているもの:ヴィンテージジャケット
「このジャケットは蚤の市で見つけました。売っていた人は、自分のお母さんが着ていたジャケットを、ほとんどタダで出していたんです。ほかの人の目にはとまらなかったステキなものに出会うって、特別な感じがしますよね」。

サマー・チョン
皮膚科医
→ 身に着けているもの:白衣
「医学博士号をとって、初めてこの白衣を着たとき、とても誇らしい気持ちがしました。達成感もあったし、晴れがましい気持ちも。白衣を着ると、強い自分でいられます。
わたしにとってはプロ意識の象徴であると同時に、患者とコミュニティのために尽くそうという誓いを思い出させるものです」。

ブライアン・ラム
レビューサイト「ザ・ワイヤカッター」創設者
→ 身に着けているもの:翡翠の腕輪
「父がくれたんです。僕たち兄弟それぞれに。深緑で大きめのインレイが入った腕輪を僕が選んだら、父が『それは色がちゃんと出てないダメージのやつだ』って言いましてね。
あえてこういうふうに作ったんじゃないかと思うけど! 手首にはめたときの重みがいいんですよね。ほんのちょっぴり、ご先祖に近づけてくれるような気がするんです」。

ケリイオカラニ・マクア
トラディショナル・タトゥーイスト、タトゥースタジオ「カ・パー・オ・フノフオンホラニ」オーナー
→ 身に着けているもの:キヘイ(ケープ)とカーカウ・ウヒ(タトゥー)
「カーカウ・ウヒに心を奪われたのは、従兄弟のケオネ・ヌーンズのもとでフラを練習していた時期だ。従兄弟は若い頃に技を年寄りから受け継いでいたから、俺は手伝いをしながら弟子になった。俺の直系では6代前のじいさんが彫師だった――つまり、俺は先祖の道をたどっているというわけだね。
先祖たちが入れていたのとまったく同じ模様もいくつか入れている。入れ墨を施す理由は、肉体を強くするため、そして自分のアイデンティティとルーツを示すため。身に纏っていれば、俺があの世に旅立つときにも先祖が見つけてくれて、カーネ(ハワイの生命の神)の長い旅路を正しく歩ませてくれるだろう」。
 
クリス・ローラー=写真 ユーニカ・エスカランテ=文 上原裕美子=翻訳
This article is provided by “FLUX”. Click here for the original article.

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