自然との共生を“体感”する
このツアーでは、ガイドの中山 健さんによる、野生動物への愛情溢れるガイダンスが忘れられない。
夜20時頃にホテルを出発し、西表島の夜の自然を存分に楽しむ3時間ほどの内容で、中山さんが把握している県道沿いのポイントを巡るものだった。
畑や森のなかに車を進め、「ここからは歩きましょう」と先導してくれる中山さんは、通常の懐中電灯と刺激が少なく動物観測に良いとされる赤色灯のライトを使いながら、イリオモテヤマネコを含む夜間に活動している生き物を探してくれる。
しかしイリオモテヤマネコとの遭遇率は低く、出会うために何度も来島し、それでも出会えないゲストがいるほどらしい。
今回も、山から出てくる可能性のある場所へ連れていってくれたが、残念ながら「今日はいないか……」となった。
言うまでもなく、島の野生動物に関する中山さんの知識は深い。遭遇するフクロウやコウモリや猪などに出会うたび生態について教えてくれる。
車でひいてしまう「ロードキル」を避けるためゆっくりと運転し、道路をヤシガニなどが歩いていると車を止めて“救出”するシーンも何度かあった。
道路脇で佇むフクロウのリュウキュウコノハズクを発見したときも、中山さんは車を止めて急行。
「ひかれてしまったのかな」と様子を伺い、血が流れているのを見て、「ごめんな。痛かっただろう。ごめんな」とうなだれた。
人もまた、自然の一部。
中山さんはガイドを生業とするだけに、人と野生動物が共生できる環境づくりの一助になりたいという思いがある。
だからこそ、大野生が巣食う島に人がお邪魔することで生まれた悲劇に懺悔をしているような瞬間だった(後日、中山さんに聞いたところでは、ツアー終了後に通ったときにリュウキュウコノハズクの姿はなかったという。そして、おそらく車にぶつかったことが原因で佇んでいたが脳震盪で済み、森に帰っていったのではないかと推測していた)。
2泊3日では、短過ぎる
2つのハイライトのほかにも、ホテルの敷地内にあるジャングルをガイドと巡るツアーや、島の成り立ちからイリオモテヤマネコの生態までがわかる「イリオモテヤマネコの学校」。
マングローブ原生林をカヤックで行き、山中をトレッキングして戻ってくる「クーラの滝カヤック&トレッキング」に、ホテル前の月ヶ浜で水平線に沈む太陽をみながらSUPを楽しむ「夕凪SLOW SUP」に参加した。
それでも今回体験したのはネイチャーツアーの一部でしかないし、島の自然のほんの一部に足を運んだに過ぎない。
同じロケーションでも四季によって楽しみ方は変わるというから、そのバリエーションは際限がない。
次はできる限り長く滞在したい。リピートもしたい。
そう思えたが、「星野リゾート 西表島ホテル」総支配人の細川正孝さんによれば、なんと長い間、西表島の観光利用は日帰りツアーが主だったという。
多くの場合において宿泊地に選ばれるのは石垣島。空港がありコンビニエンスストアもある。要は、便利なのだ。
細川さんは「西表島の魅力に関するアナウンスが少なかったとは思います」と反省を口にする。
しかし世界自然遺産に登録された今後は、環境負荷を抑えるためにも長く滞在する人、西表島の魅力に深く気づく人を増やしていきたいという。
西表島には、タヒチやハワイや南アフリカといった場所と同様、「来てみないとわからない」魅力があった。
ほかとは比べられない、西表島でしか感じられない、唯一無二の自然環境があった。
最後に、東京からわずか4時間程度で着く、稀少な動植物たちが暮らす日本最後の秘境に行くことを考えているならば、インバウンドが再開する前、自然を保護するために近く採用されると言われる入島制限がスタートする前の渡航が、絶対にいい。
それは無論「今すぐに計画作りを」ということである。
[施設詳細]星野リゾート 西表島ホテル沖縄県八重山郡竹富町上原2-20570-732-022(9:30〜18:00)https://iriomotehotel.com高橋賢勇=写真 小山内 隆=取材・文