メンズファッションに、とかく求められがちな「遊び心」。
読者におかれては、正直、何それ!とツッコミを入れたくなるような「遊び心」をファッション雑誌から数多く提案されてきたのではないかと、自戒を込めて推察する。
けれど、今回の「遊び心」は、本気だ。否、遊びだ。
何を言っているの?と思うかもしれない。だが文字どおり、「遊び」の王様、トランプがモチーフなのだ。ハイ、出オチを失礼。ただし、それだけならば、ここまで壮大な前フリはしない。
トランプ柄のアートワークを手掛けたのが、西海岸のローブローアートの巨匠、ケニー・シャーフなのだ。一部のフリークはここで拍手となる。
というのも、1980年代からストリートを主戦場に活躍してきた彼は、時代の寵児、ジャン=ミシェル・バスキアやキース・ヘリングなどとも交流があり、キャリアを確立してきた、今やその道の重鎮。アーティスティック ディレクター、キム・ジョーンズに備わるアートへの造詣の深さと人脈の広さによって実現したのだ。
もちろん、ただのトランプに終わらず、「ディオール オブリーク」や「トワル ドゥ ジュイ」といったメゾン伝統の柄と融合させつつ、持ち味のポップセンスを発揮。
シルクに精緻なプリントでこれを実現することで、トランプゲームが好きだったというムッシュ ディオールへのオマージュを捧げている。これをスラックスなどの大人なパンツと合わせるだけで、装いが楽しく、気分も賑やかになると思うのだ。
というわけで、本気の「遊び心」ここにあり。遊びの遊び服で、この2021年後半戦を遊んでしまおう、と言葉でも遊びながら締めくくりたい。
清水健吾=写真 来田拓也=スタイリング 髙村将司=文