大衆的なマスツーリズムと小規模なエコツーリズム
これまで観光業界に見られた旅行商品は大衆を対象とするものが多かった。“マスツーリズム”と呼ばれるその観光行動はリーズナブルさが特徴で、だから多く販売する必要がある。
自治体の観光評価も「年間何万人」など訪問者数によって行われることから、観光バスから大量の旅行者がドッと吐き出されるといった現象が起きる。人が多く足を踏み入れるので環境負荷を高めやすく、自然環境への啓蒙もしがたい。
短い滞在時間で次の目的地へ移動してしまうため、そこが世界自然遺産の登録地だとしても、登録された背景への理解を深めづらいのだ。
このマスツーリズムと対になるのがエコツーリズムである。
一度に滞在できるのは少人数で、滞在日数は週や月単位の長期となる場合が多い。一人当たりの旅行単価は高く、人数が少ないことから環境負荷は低く、ゆったりと滞在するから自然環境への理解を育みやすい。こうしたエコツーリズムのような旅の形を求めるのは、“ただ泊まれればいい”という人ではないと星野さんは言う。
文化的な素養が高く、自然豊かな環境を求め、環境にフィットする建築デザインを心地良いと感じる。だから大自然の中に威風堂々とした巨大なリゾートを造る必要はない。先進的な環境共生型リゾートが総じて小規模である理由は、そのためなのだ。
「自然を観光で活用する意味合いは、自然保護への理解を旅行者に深めてもらうことにもあります。財源の確保ができ、理解者を増やすことができると、欧米のように観光は持続可能になっていきます。
しかし日本のツーリズムにおいて自然観光は弱い分野。素晴らしい自然はたくさんあります。国土が縦に長く四季があるため、異なる特徴を有する各地域の環境は、季節に応じてさらなる変化を見せます。生物多様性もある。北海道にヒグマがいて沖縄にサンゴが生息しているわけですから。
しかし日本ならではの豊かな自然を活かした観光政策は乏しいのひと言。持続可能性も低い。世界自然遺産が知床、白神山地、屋久島、小笠原諸島にあり、登録した際にはメディアの皆さんに大きく扱ってもらうことで翌年の観光客数はどこも伸びました。しかし翌年以降は落ちていく一方。そこに大きな課題があります」。
要は、素晴らしき自然に触れる旅の形が日本にはマスツーリズムしかなかった、ということである。修学旅行や社員旅行を代表とする団体旅行をターゲットにした、国立公園内にある旅館などは日本式マスツーリズムの象徴といえる。
しかし個人旅行時代のその先へ向かう今、新しい旅の形を求める潜在的なニーズは少なくなさそうである。だから星野さんはこの春、沖縄県の西表島に日本初となる“エコツーリズムホテル”の展開を決めた。
4/4