自然環境を守るためのツーリズムの形とは?
近年、なぜ環境共生型リゾートは増えているのか。そう問うと、星野さんは「環境を保全するため」と答えてくれた。環境を保全する資金をツーリズムという経済活動で得るというのである。
「ヨーロッパのアルプスもアメリカの国立公園も、保護と活用を両立してきました。観光として活用するから経済効果が生まれ、収益の一部が活用や保護のために使われる。
活用のためには掲示板の多言語化や遊歩道の設置など環境整備が必要ですし、保護には研究や保護活動などが必要です。これらの資金を日本は税金で賄ってきたのですが、海外では“エコツーリズム”という経済活動でお金を循環させてきました」。
さらに自然の良さや貴重さを広く伝えていくこともエコツーリズムの重要な役割であり、自然環境に対する理解者の獲得も目指す。海外ではそのような考え方が早くから根付いていたのだと星野さんは言う。
スイスのツェルマットでは、’61年にガソリン車でのアクセスを禁じたカーフリー制度が住民から提案されている。もう60年も前に、氷河をはじめとする雄大な自然を資源かつ財産と捉え、美しくクリーンな町を維持するための取り組みがスタートしていたのだ。
「最近ではオーストリアのオーバーレッヒで興味深い開発がありました。日本の老舗温泉旅館のような古いホテルが立ち並ぶ村で、昔から観光で有名な素敵な場所なんですが、サンアントンやステューベンといった周辺のスキーリゾートが力をつけてきたことで長く集客力が落ちていたんです。
そこで18軒のホテルオーナーが団結して、改めて自分たちの村のコンセプトを見直そうという動きが起きました。結果として彼らが取った策は車の排除。村から遠い場所に大きな駐車場を造り、そこからは地下道を通ってホテルにアクセスするようにしたんです」。
車を排除すると道路がなくなり、地上のすべてが冬はゲレンデとなり、夏は草原となった。美しい景色だけが残ったのだという。
「景観を壊していたのは何か?車や道路、白い雪を黒ずませる排ガスだったんです。ものすごく大きな決断なんですけれど、美しいアルプスの風景を取り戻すことでオーバーレッヒは大復活を遂げました」。
集客力が落ちた理由は経済原理に求められる。自然観光においては環境に配慮する姿勢を市場は評価し、お客は戻ってくる。それが今という時代なのだと、星野さんは指摘した。
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