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対面する際には数値データを用いるが、選手からは感覚的な注文も多いようだ。例えばヒールカット。踵から地面に着地した時に、スムーズに踏み込めるために入れたカットで、踵部分に意図的に傾斜をつけている。このヒールカットが始まるポイントが「少し前すぎる」という指摘があった。市民ランナーと異なり、トップアスリートは踵からではなく中足部接地が多いためだ。
「シューズの開発段階でのことです。市民ランナーと違うので、アスリートにはヒールエリアのミッドソールは不要と判断して、軽量化の目的の中で少し大きく削っていたんです。しかし、フルマラソン後半で疲労が溜まった時に重心が後ろに移る時がある。その時にカットが強いと、『後ろにのけぞってしまい、余計な力が入ってバランスを崩しやすくなる』、という意見をもらいました。
軽量化というデータ分析からすると理にはかなっているけども、アスリートの声を聞くと違った意味が見えてくる。彼らが実際に距離を積んで走ってもらっていただいたコメントなので、彼らの協力を無駄にできませんね」(竹村氏)
 

35km地点で体力温存を感じられる安定したシューズへ

選手にテストシューズを履いてもらう中、速度に影響する前向きな効果が得られるようになった。従来シューズとの比較で、「スカイ」で平均約350歩分、「エッジ」で約750歩分少なく、マラソン距離を走れたのだ。
「例えばフルマラソンを30000歩で走るとします。その中で1歩の距離が1cm伸びただけでも30000cm(300m)。彼らとしても、5mm、1mmと少しでも進む距離を伸ばしたいという思いがあります。一歩減るだけでも、地面からの地面反力(地面からの突き上げの毎回毎回のダメージ)の負担を減らせますからね」(竹村氏)

また、プロトタイプのシューズを履いた選手が、次々と自己ベストを更新するというニュースが届いた。アシックスのヨーロッパ部門でのイベントでは、5km、10kmと中距離ではあるが、22人が自己ベストを更新。うち3人がナショナルレコードであるから驚きだ。
トライアスロンのB・ポッター選手も暫定で5kmの世界新(非公式)を出した。フルマラソンでは、2021年びわ湖毎日マラソンで自身初の2時間7分台を記録した川内優輝選手がいる。
さらには、2020年ロンドンマラソンで、自己最高の2時間22分1秒をマークしたサラ・ホール選手(米国)も同シューズを採用。周回コースだったロンドンマラソンでは、サラ・ホール選手は後ろの位置だったが、後半にスピードアップ。最後の直線で3位選手を追い抜いて2位となった。


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