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土に埋めればいずれ自然に還る「ボタニカル・ダイ」の服

[左]モックネックの長袖Tシャツは今季の新作。高級インド綿の50番手双糸を用いた、滑らかな素材感が特徴だ。ケールの搾りかすから色素をとり染色。1万3200円/イコーランド トラスト アンド インティメイト(イコーランド シブヤ 03-6805-0903) [右]付属の「信用タグ」。素材生産者からデザイナーまで、製品作りに携わったすべての人たちの署名を印刷。
服作りは確かにイコーランドのいち側面だが、現状最も重要な役割を担う側面であることは間違いない。服作りの哲学は「信用」であり、その象徴が製品に付けられた長いタグ。糸を紡いだ人、パターンを引いた人、縫製を担当した人など、その服の生産に関わった人の署名が印刷されている。
「映画のエンドロールにも市場で売られている野菜にも、制作者や生産者の名前が書いてありますよね。客はその名前を見たとき、『確かに存在する、誰かが作ったものなんだ』と認識します。ファッションも同じで、誰が作ったのかをちゃんと表示する。それが信用だと思うんです」(松井さん)
[左]高級ブランドの余剰在庫だったラムレザーを使用したライダーズジャケット。6万500円 [右]世界的スポーツブランドの余剰在庫となっていた生地を使用したスウェット&スウェットパンツ。裏毛の優しい肌触りが魅力。スウェット1万7050円、スウェットパンツ1万7600円/すべてイコーランド トラスト ファッション (イコーランド シブヤ 03-6805-0903)
ファッション業界においてこうした表示はきわめてまれ。デザイナーは別として、服作りの土台を担う人たちの名が表に出ることはなかった。だが彼らは職人としての誇りを胸に、誠実なモノ作りに精勤する人々だ。そんな彼らに光を当ててはばかられることなど、何ひとつあろうはずがない。
さてイコーランドの服はどこがサステイナブルなのか。ポイントのひとつが、「素材の余剰在庫」による服作りだ。
タイの工場から、ラグジュアリーブランドが残したデニムとチノの素材を調達する。韓国の工場から、デザイナーズブランドが残したレザーを調達する。クオリティは抜群だが活用されなかった素材、そこに着目したのだ。生産部門の責任者である坂田英一郎さんが補足してくれる。
生産責任者の坂田英一郎さん。服作りの素材はすべて、坂田さんの目と手で検証したものだけを使用。
「現在、イコーランドで使う素材は大きく3つに分けられると思います。1つが世界中に眠っている、ファッション業界の余剰在庫と呼ばれる素材。2つ目が新たに開発したサステイナブルな素材。そして3つ目が古着を再利用した素材です」。
実に40年にわたりキャリアを積んできた坂田さん。多くのブランドの企画やOEM(他社製品製造)に携わり、自身のブランドを運営していた時期もある。そんな彼が新たに開発した素材がある。
「洗濯機で洗えるカシミヤとシルクです。カシミヤジャージーは、生地の段階で特殊な熱加工を施すことで縮みを防ぎます。
シルクジャージーは、糸を作る前にセリシン(シルクを構成するたんぱく質のひとつ)を一度分離し、改質したセリシンを再び吸着させます。この工程によって、洗濯機で洗っても硬くならないんです」(坂田さん)
[左]洗濯機で洗えるカシミヤジャージーを用いたレディスのカーディガン(右)と、シルクジャージーのカットソー(左)。どちらも乾燥機の利用までOKという画期的な素材。カーディガン2万900円、カットソー2万9700円 [右]オイルドコートの生地を再利用したヘルメットバッグ。古着のコートを裁断し、生地にオゾン加工を施して、独特のオイル臭やべたつきを除去。バッグとして再生させた。2万9700円/すべてイコーランド トラスト ファッション (イコーランド シブヤ 03-6805-0903)
カシミヤジャージーは今はレディスアイテムのみの展開。メンズへの活用も期待したい。ほかにも100%オーガニックコットンのワッフル生地、国内で織り上げたリネン、高級オーガニックインド綿の50番手双糸で作ったTシャツ生地など、サステイナブルな新素材が続々と生まれている。
「将来的には僕らが作った素材で、ほかのブランドにもサステイナブルな服を作ってほしい。時間はかかると思いますが、既に業界内でのプロモーションは始めています。興味を抱かれているブランドさんも決して少なくありません」(松井さん)
染色には「ボタニカル・ダイ」という技術が駆使される。日本古来の草木染めをベースにした技術。一般的には天然染料を20%使用していれば草木染めと呼ぶことができるが、イコーランドでは、特殊な糊で成分を繊維に付着させる独自技術により、天然染料の割合を90%以上に維持している。
「オーガニックコットンの服は、いよいよ捨てるというときも焼却する必要はありません。条例などの規制があり実際は難しいのですが、庭を掘って埋めればいずれ自然に還ります」(坂田さん)


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