「まだ始まっていないこと」を先取り。スモール・ラグジュアリーの細部はすごい
保坂邸の天井高は7メートル。だが、ペンダントライトは一切ない。「照明器具は、手が届くところ、天井高の半分より下の、高さ2.2メートルくらいの位置にだけつけています。人工光はスペースを切り抜いて照らすように。なぜなら、この延床面積だと、夜、天井から人工光が照らした場合、家全体が明るくなってしまう、私が夜遅くまで玄関近くのテーブルで仕事をしていると、妻が寝ている奥のベッドまで明るくなってしまいますから」。
実は、この家のシグニチャーでもある大きなガラス窓の先の道路も保坂邸の敷地だ。それは地域開放の私道であると同時に、通行人や隣人にとっての生活道路でもある。
ガラスの引き戸になっているこの窓、実は当初「板戸」を予定していた。生活していて通りを歩く人と目が合ってしまう透明なドアはさすがにないなと考えたからだ。2階建てを想定していた設計初期の頃と同じ「守り」の発想である。
しかし気がつくと2人で、「木のドア、どうやって開けておこうか?」という相談ばかりしていることに気づいたという。であれば目隠しとしての窓はそもそも必要ないのでは、と、木のドアを注文する直前でガラスに変えたのだ。
木のドアをガラスに変えたのが正解だったことは、住み始めてから、部屋の中から見えるビルとビルの間で青く輝く小さな空が、まるで天守閣の甍が切り取った青空のように見えるときにも感じるという。
恵は保坂を見ていて、「建築家は、将棋の棋士さんと似ている」と思うという。「まだ起きてないこと、勝負でいうなら相手の次の手、次の次の手を読んで、自分の次の一手を繰り出しているなと感じますね」
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