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まず、2階建てが暮らしにもれなくもたらす要素が「階段」だ。だが、建物の幅が2.5メートル程度のところに75センチ幅の階段を作れば、部屋の幅は2メートルを欠いてしまう。そして階段によって占有される面積を極小にすればするほど、その階段の小ささ、貧弱さがかえって貧しさを象徴する恐れもある。
また2階を広くしようとすれば、1階の開放感が犠牲になることは必定だ。とくに光の問題は避けがたい。階段部分だけを吹き抜けにしたとしても、やはり天井に設けたトップライトは見上げれば小さく切り取られてしまい、上からの光が1階には届きにくくなる。
「そういったいくつかの問題が、『平屋』に決断することで一瞬にして消え去りました」と保坂は言う。
トップライトから差し込む天空光に、季節や時間が映る(写真:Koji Fujii / TOREAL)
妻の恵も「江戸時代の長屋では、2部屋なんかあろうものなら、たとえば旦那に囲われている三味線のお師匠さんが、ちっちゃな庭が見えるその別室でお弟子さんを取ったり、旦那が来たときにその部屋でお酒を注いだり、生活とはまったく別の風景すら見えてくる。ましてや、18平米もあったらなんでもできる! って思いました」と語る。
保坂猛・恵夫妻

もう一つの「あえて」が露天風呂だった

延床20平米を下回る一戸建てには、有名なところでは、鴨長明による「方丈庵」(一丈四方9.18平米)、ル・コルビュジェによる「カップマルタンの小屋」(16.85平米)などがある。そしてこれら2つに共通していることは、「やはり『小屋以上住宅未満』のそれらの建物が、周辺環境まで含んで、まるごと住む人に愛されていたこと」であると保坂は言う。
「平屋の設計図を引きながら、僕はこの18平米の家で、古代ローマ人がヴィラでの生活の理想とした5つの要素、すなわち学問、入浴、演劇、音楽、美食を実現させることを考えました。つまり、毎日露天風呂に入り、300枚のレコードを十分な音量で楽しみ、土鍋で炊いたご飯を食べ、好きな本を読む、という」
妻の恵は、「保坂の建築が、そもそもの『狭い、広い』の概念を破ってくれた。ここはいわば、『面積の常識』を豊かに超えることで、まさにまるごと愛される建物になった」と言う。
室内のグリーンとともに「しつらえ」られた木製の鳥。風が吹き込むと羽ばたく


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