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奇跡の「小屋以上」がとりこむもの、とりこまれるもの

恵は「しつらえ」が好きだという。たしかに取材の日も、春を感じさせる植物が室内の壁にしつらえられ、天井近くのグリーンの中には木製の鳥モビールが、ときおり窓から吹き込む風に応えるように羽ばたいていた。
しつらえ、とは、禅や茶の考え方にも立って、場や空間のありかたを主客(この場合は住宅の居住者)の好みで演出、デザインすることだ。そこには春、夏、秋、冬、そして朝、昼、夕、夜のうつろいに一期一会の縁を感じ、それらと一瞬の絆を結ぼうとする住む人の直感的な願いがある。
天空光が「直射月光」に変わろうとする時間帯のLOVE2HOUSE(写真:Koji Fujii / TOREAL)
「この家で『しつらえ』ていると、自分もそのしつらえの中にとりこまれていくような気がします」という恵の言葉を反芻し、この家に「とりこまれるように」生活する感覚を想像してみた。すると、東京都文京区に出現したこの18平米が、住まう人のみならず月光や日光、さらには季節までもをその中に包含する、宇宙のような空間に思えてくる。
すべての「本当に好きな、必要なもの」に4歩や5歩で手が届く近さも利用し、住む人をその宇宙のなかにとりこみながら暮らしを育む箱庭。ここはどうやら、建築の最適解としての「住む人と住まわれる空間の一体化」がもたらされた、奇跡の『小屋以上住宅未満』であるらしい。
写真:Thee Ned’s
保坂 猛◎1975年山梨県生まれ。横浜国立大学卒業後、同大学院在学中から設計活動を始める。現在、保坂猛建築都市設計事務所代表、早稲田大学芸術学校准教授。自然を息づかせる建築、自然光や直射月光を生かした光の建築などを数多く生み出す。主な作品に『LOVE2 HOUSE』『ほうとう不動』『湘南キリスト教会』など。2013年、建築家の登竜門である「日本建築家協会新人賞」受賞、また〈ほうとう不動〉で日本建築仕上学会賞などを受賞。ほかにも〈DAYLIGHTHOUSE>で2013年JIA新人賞、神奈川建築コンクール優秀賞、イギリス、ドイツ、オーストリア、など国内外での受賞多。
写真:Thee Ned’s
保坂 恵◎保坂猛建築都市設計事務所コミュニケーション・マネージャー、広報担当。プロの「建築家の妻」として夫の事務所を切り盛りして17年、施主らからの信頼は篤い。栄養士でもある。とくに好きな世界建築はコペンハーゲン郊外、ウッツォンのバウスヴェア教会。「趣味は保坂猛」。
 
石井節子=文
提供記事=Forbes JAPAN


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