根っからの釣り好きだった藤井氏。日本各地の釣り名人と釣りを介して友人になり、その土地の釣り方や仕掛けを教えてもらった。その経験が商品作りに生かされた。このエピソードは今もがまかつ内で語り継がれている。
「カリスマ性のある繁克氏は、人を惹きつける魅力と高いリーダーシップの持ち主だった。がまかつの文化は創業者の人柄によって形作られており、それが今も息づいている」と同社関係者は語る。
「70本目の試作品」に表れる、品質のこだわり
がまかつが支持される理由の一つに、顧客の期待に応え続けている点が挙げられる。ユーザーは、がまかつの品質に期待を寄せている。これに応えるべく、がまかつはプロダクト開発について一切の妥協を許さない。
例えば、試作品は必ずフィールドテストする。がまかつの広報を担当する村松将年氏は、竿に「70」と書かれているのを見たことがある。70本目の試作品を意味する番号だ。つまり一つの商品を開発するのに70回もの試行錯誤を加えているのである。村松氏は「ものによっては100本を超えることもあるはず」と証言する。
竿だけでなく、鈎(はり)へのこだわりも生半可なものではない。鈎はがまかつ誕生のきっかけともなったプロダクトで、ブランドにとって特別な存在だからだ。
例えば、「トップレスコート」と呼ばれる技術がある。鈎に餌と似た色をつけることで、水中で目立たなくなる。結果、魚が食いつきやすくなるのだが、塗装によって鈎先の鋭さが鈍くなることがある。
これを解決するべく、がまかつは鈎の先端のみ塗装を避けるトップレスコートを開発した。時間も手間もかかるが、顧客の期待に応える姿勢が生んだプロダクトといえよう。
なお、同社関係者は「鈎の正確な数はよく分からない」と言うが、色違いを含めるとがまかつには約1万種類のラインアップがあるといわれている。顧客の期待に応えて増えていったのだが、気の遠くなるような数字である。
エンゲージメントの先の「歓喜」
顧客のエンゲージメントを高めることは、カルトブランディングの基本である。しばしば「顧客満足度の向上」と置き換えられるが、厳密にいうと説明が不十分だ。エンゲージメントとは愛着を意味するものであり、単に満足度を向上させるだけでは得られないものである。
がまかつでは、顧客の満足に重きを置いているわけではない。満足の先にある「歓喜」を目指しているという。
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