OCEANS

SHARE

海は汚れてしまった。それでも海は、なお美しい

さらに同じ頃、衝撃的な光景を見る。場所は太平洋のど真ん中に浮かぶミッドウェー島。人のいない絶海の孤島に、コアホウドリの死骸がビーチのあちこちに転がっていたのだ。
よく見ると身体の一部が腐っており、その内側にはプラスチックの破片の塊がいっぱい詰まっていた。現地のガイドによれば、母鳥が餌だと勘違いした洋上に浮かぶプラスチックを子に与えた結果なのだという。
「20年以上も前のことですが、当時でさえミッドウェーにはマイクロプラスチックが多く漂着していて、日本製の100円ライターもたくさんありました。また’98年にはエルニーニョ現象によって海水温が上がり、世界的にサンゴが死滅したんです。
以来、サンゴの白化現象は何度も起きていますし、アザラシを追いかけて撮っていると氷が溶けていることがわかります。自然環境が明らかに変わっている。だから僕にとって撮影の意味合いも変わっていきました。
ただ感動してシャッターを押していただけなのに、何かできることがあればしないといけないのかも。そんな気持ちが生まれてきたんです。長く地球を楽しませてもらいましたからね。
今の若い人のなかには、生まれたときにはもう地球温暖化が始まっていた人もいますし、僕らや前の世代が散々やってきて今があるともいえます。できることはやらないと。そういった気持ちは強いですね」。
今は作品の発表に加え、講演会を行い、社会派の雑誌に寄稿し、さらに海の環境NPO法人「Oceanic Wildlife Society」で理事を務めるなど、地球や自然の素晴らしさを意欲的に発信している。だが、伝えることの難しさを感じることもある。
「僕には35年近くをかけて撮ってきた写真と聞いてきた話があります。機会があるたびにうまく伝えたいと策を練るのですが、あまり口うるさく言うと煙たがられてしまう。そこが難しく感じます」。
だが失望しているわけではない。
「社会やコミュニティに属する人の9%が変われば状況を変えられるという話を以前に聞きました。すべての人ではなく、一部の人にしっかり伝えられればいい。そう思うと、希望はあるなと感じます」。
大好きな海は汚れてしまった。東京湾で獲ったイワシの8割からマイクロプラスチックが検出されたという、東京農工大学による調査結果もある。そしてプラスチックの中には、自然分解されるまで1000年もの長い時間を要するものもある。
でも、それでも海は今も美しいと、高砂さんは言い切る。
きれいであり、生態系も息づいている。ザトウクジラは今日も悠々と大海原を行き、巨体は大空を舞う。その光景を東京のオフィスにいるときでも感じながら、この星に宿る生命の神々しさを、これからも人々に伝えていきたいと思っている。

高砂淳二=写真 小山内 隆=編集・文


SHARE

次の記事を読み込んでいます。