既存のリサイクルコットンより2.5倍もサステイナブルな素材
H&Mがサステイナブルな取り組みに本格的に注力しはじめたのは1990年代後半のことだ。
「ファッション業界全体が抱えていた慢性的な問題が、いくつも表面化した時代でした。児童労働の問題や化学薬品による水の汚染……。直面する問題をどうやってクリアしていけばいいのか。そんな模索の時代が、今の取り組みの源流にあると思います」(田中さん・以下同じ)
H&Mの企業としての沿革をたどれば、’90年代〜2000年代というのは、ヨーロッパ圏を飛び出しさらなる店舗拡大を本格化した時期にあたる。アメリカへ、そしてアジアへ。成長と同時に、持続可能な事業を実現するための知見を積み重ねていったということだ。
その経験値が、ファッションとしてひとつの結実を見せたのが、’10年に発表された「コンシャス・コレクション」である。
「オーガニックコットンやリサイクルポリエステルといった自然や労働環境に配慮した素材で作った服を、コレクションとして初めて発表しました」。
言葉は悪いが、当時おそらく多くの人たちが「H&Mはファストファッションの代表的ブランド」と認識していたのではないか。このコレクションで、大量生産・大量消費の象徴と思い込んでいた我々のイメージを変えはじめた。
その哲学はもとより、スタイリッシュなデザインにも驚かされた。そしてエコ(当時はサステイナブルという言葉も一般的ではなかった)とファッションは両立すると気付かされたのである。
そうして30年以上にわたりサステイナブルな取り組みに挑戦し続けてきたH&Mが近年迎えているのは、「イノベーション」の局面。すなわち技術革新だ。
AIを活用した、廃棄物ゼロの循環型デザインワーク。サボテンやブドウの皮、パイナップルの葉(!)から作られたヴィーガンレザー素材。環境問題に詳しくない者が耳にしてもワクワクするようなストーリーを持つ画期的技術の数々が実現され、運用へと導かれている。
そんな技術革新の多くが、H&Mファウンデーションが主催する「グローバル・チェンジ・アワード(※1)」の受賞企画から生まれている。サステイナブルのアイデアの種を発掘し、その成長をサポート。
また驚くべきことに、H&Mがこれらのアイデアを独占することは決してない。サステイナブルへの取り組みとして業界全体で広く役立ててほしいとの思いから、その権利をオープンにしているのだ。
「このスウェットシャツとスウェットパンツにも、最新の技術が詰まっています。それは素材。リサイクルコットンを50%以上使ったコットン素材“RCOT(アールコット)”です」。
リサイクルコットンは繊維一本一本が短い。それゆえ、繊維の長い新しいコットンと混紡して作る必要がある。そのリサイクル繊維混紡の割合は、20%までが限界とされてきた。それ以上混紡すると繊維切れなどにより耐久性が担保できないからだ。
しかしこの“RCOT”は、リサイクルコットンを50%まで混紡。コットンの耐久性や風合いを損なうことなく、リサイクル繊維の割合を高めている。単純に言えば、今より2.5倍もサステイナブルな素材というわけだ。
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