数学による解析を生かした、物作りをしている
―テクノロジーの発展によって、計算する人間の身体から離れて、スーパーコンピュータのような人間の脳を超えた機械が自ら計算する社会というものに、追いついていかない自分がいます。相曽 つまりは数という概念が人間から生まれたものであるのに、それが一人歩きして人間を疎外していると(笑)。
―疎外とまでは思ったことはありません(笑)。もちろんよりよく暮らすためのテクノロジーの発展は賛成ですが、同時にヒューマンスケールを超え続けていくことによって、生活者としての実感が置いてきぼりになるのは少し寂しいというか、違和感を感じる瞬間があるということです。そういった意味でも、そのテクノロジーの最前線にいるおふたりに話を聞きながら、わからないなりにも少しずつ仕組みを知って、実感していきたいという気持ちがあります。相曽 人間は様々な学問を生み出してきましたが、その学問の概念は人間の有機的なものから生まれていますよね。その概念が例えば抽象的に抽出されてしまうとするならば、生活者である人間と離れていってしまうことも、あるのかもしませんね。
ですが、我々が取り組んでいる研究というのは、数学による解析を生かした具体的な航空分野に関わる物作りをしているんです。
青山 学問にも分類がありますが、我々が属する航空技術部門においての仕組みでいうと、まず第1の科学的手法は「実験」、第2の科学的手法は「理論」。そして第3の科学的手法が、数値流体力学(CFD)による「数値シミュレーション」と言えるんですね。
相曽は第2の科学的手法である「理論」を行う数学者であり、私は第3の数値シミュレーションを研究している工学者であると。つまり数学者と、スーパーコンピュータという名の計算機のあいだに、数学の理論を計算機にわかるようにプログラムを書く工学者がいるわけです。
このようにみんなで役割分担をしながら、物作りをしているので、懸念されているような計算する人間の身体と機械が極端に離れているわけではないんですよ。
―改めて前提や仕組みを知ることって大切ですね。相曽 青山が言うように役割分担は明確ですが、研究開発を行う上では、この3つの手法をはっきり区別するのではなく、グラデーションでつながっていることがとても大切です。実際はそれがなかなか難しくもありますが、開発力とはなだらかなグラデーションでつながっていることでこそ、育まれるものだと思います。
―そしてその3つをつなぐ共通言語こそが、数式や、数式を利用したNS方程式であったりするわけですね。相曽 そういうことですね。
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