青森ならリンゴ、千葉なら落花生。何にでも名産地というものがある。
ファッションも然りで、岡山ならデニム、さて和歌山といえば……。勘のイイ諸兄ならお気付きだろう、吊り編みスウェットは世界広しといえどメイド・イン・和歌山しか存在しないのである。
以前
「“吊り編み”スウェットの意外と知らない話」で講釈させていただいたとおり、吊り編みスウェットを編めるのは旧式の吊り編み機だけ。この貴重なマシンはもはやアメリカにも現存せず、カネキチ工業ほか、和歌山県内の数軒で稼働するのみ。ルーツをたどれば江戸時代に紀州ネルの生産地として栄えた下地があり、20世紀前半にスウェット用の編み機が多数導入されていたのだ。
服飾界の生きた化石。そのふくよかな着心地に抱かれれば、至福の時を過ごせるに違いない。
「マーカウエア」
度詰めの裏毛生地にルーズショルダーが特徴の、ブランド定番。このヘビーな作りでも軽やかに羽織れるのは、糸の自重でゆっくり編む吊り裏毛のおかげ。
「ヤエカ」
生産効率こそ悪いものの、最新の編み機から生まれるスウェットとは段違いの柔らかさ、丈夫さを備える吊り編み地。ヤエカのように、服のシルエットと着心地にこだわるブランドからその本質が評価されている。
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