映画監督を「生業」にはしない?
次作については「企画は複数、用意してある」そうだが、詳細はまだ決まっていないという。
「今は企画を練り直し脚本を整えている段階です。『人数の町』で現場を経験してから、より脚本の段階で考え尽くしたいと思うようになりました。
本業の広告の仕事もつづけているので、コロナが明けて環境が整ってから、本当につくりたいと思える作品をしっかり撮りたいです」。
今後、監督業のみに絞ることも今のところは考えていない。
「考えてない、というよりはそんなに甘い商売じゃないと思っています。少なくとも自分の場合は撮りたいものを撮ることが一番大事で、それを生業にできるかどうかはそんなに重要ではない。
むしろ、脚本から自分で手掛けるかどうかがすごく大事だと思うようになりました。もちろんたくさん撮りたいとは思うし、明日オファーがくれば飛びつくかもしれませんが(笑)」。
これからも映画を撮るために、独自のスタンスでやっていく様子。そんな荒木さんが不惑前後の男たちに伝えたいことは?
「あえて言えば、40歳も過ぎると『自分の青春はとっくに終わってます』的な方が多い気がして、それはちょっとさみしいですね。『自分みたいなオジサンが……』と自虐的な言い方をしながら、若い頃に聴いたバンドの音楽や映画がやっぱりいいんですよ、みたいな。それ全部いっかい捨てませんか? とは思います。
よくわからなくてもいいから20代の子が聴いているものや観ているものに触れたほうがいい。たとえばヒップホップを聞くとか、ティーンムービーを観るとか。
顔見知りの安牌なもを選ぶことが怖いんです、感覚的に。俺はこれで完成したと感じたり、自分の欲しいものがはっきりした時点で『もう生きていなくてもいいかな』と思っちゃうんですよね。
変わらず好きなものがあることはもちろん大事なんだけど、少しずつ細胞を入れ替えていきませんか? という。それで人生が変わるかはわからないけれど、単純に楽しいですよ、と。
しかもいまはNetflixもSpotifyもあって選択肢は無限なわけでしょう。僕が子供の頃なんか、『ダンボ』を繰り返し見るしかなかったんだから(笑)」。
『人数の町』Blu-ray&DVD 2021/3/31 発売Blu-ray:6380円DVD:4180円発売元:キノフィルムズ/木下グループ販売元:TCエンタテインメント©2020「人数の町」製作委員会 荒木伸二(あらき・しんじ)●1970年、東京生まれ。東京大学教養学部表象文化論科卒業後、広告代理店に入社。CMプランナーとして松本人志が出演する「バイトするならタウンワーク」のCMやミュージックビデオなどの企画制作をする。本業の傍ら、2012年よりシナリオを本格的に学び、第1回木下グループ新人監督賞の準グランプリに選出された脚本『人数の町』が映画化。2020年9月、監督デビュー作として全国公開された。
「37.5歳の人生スナップ」とは……もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。鬱屈した思いを抱えているなら、彼らの生活・考えを覗いてみてほしい。生き方のヒントが見つかるはずだ。
上に戻る 赤澤昂宥=写真 岸良ゆか=取材・文