「藤井隆行の視点。私的傑作批評」とは……ビズビムが創業当時から作っている「FBT」は、モカシンとテクニカルなソールが融合した靴で、2000年代前半に大ブームとなりました。入手困難になるほどの人気ぶりで、当時20代の僕もなんとか入手したのを覚えています。
その頃はスニーカーブームがひととおり終わり、ルイ・ヴィトンやエルメスが革靴とスニーカーをミックスしたような靴を発表し、話題を集めていましたが、そんな中突如現れた「FBT」には衝撃を受けました。
見た目は革靴、履き心地はスニーカーというまさに革命のような靴。みんな履いていたし、似たようなモノもよく見かけました。あれだけブームになったら普通は作るのをやめてしまいそうですが、ビズビムはアップデートさせながら今も作り続けているのです。
中目黒の僕の店の近くにあるビズビムのショップは、内装がとても素敵でたまに行くのですが、そこで久しぶりに「FBT」に再会しました。
いざ履いてみると、デザインのベースは同じながら、革の質や履き心地などクオリティが格段にアップ。長きにわたりアップデートされてきたんだなあと、感動して思わず購入。夏には裸足で履きたいほどです。
やはり、15年近く経つと世の中のファッションは、パンツのシルエットなり、コーディネイトのバランスなり、随分変わりました。しかし、決してヘリテージアイテムのように古びて見えず、しかも僕の今の手持ちの服にもちゃんと合う。進化を続けながらもベースがブレず、他に比較対象がないというのはオリジナルデザインとして確立されている証拠です。
この靴を紹介するのは、クオリティ、デザインともに日本を代表する名作靴としてもリスペクトする存在だからです。
「ビズビム」のFBT シャーマンディレクターの中村ヒロキ氏にとって特別な思い入れがある進化型モカシンシューズ。ネイティブアメリカンの伝統的な靴をインスピレーション源に、コルクインソールや軽量なEVAミッドソールなどのテクニカル素材を搭載。アッパーは英国製ベジタブルタンニングの牛革を使用している。
ずっと作り続けるということは、ずっと履き続けている人がいるということ。「FBT」はカニエ・ウェストやジョン・メイヤーなど、海外アーティストたちもかっこよく履きこなしていますよね。
実は同じモノをリピートしてもらうっていちばん難しいことだと思うのです。定番にあぐらをかいたら、すぐに飽きられてしまう。だからノンネイティブの定番ボトムだって、ポケットのサイズを少しだけ変えたり、裾幅を調整してみるなどいろいろな角度から刺激を与えていって、常に新鮮であり続けるようにアップデートしているんです。
作り続けることもデザインの一部。いいモノは絶えず進化を続けているんです。
[藤井隆行 プロフィール]
東京を代表するブランド「ノンネイティブ」のデザイナーで、ファッションからライフスタイルまで一貫したこだわりを持つ。「2020年12月22日からの“風の時代”に倣って、今更ながらインスタ始めました(笑)。地味にやってるので良かったら覗いてみてください」。
「藤井隆行の視点。私的傑作批評」とは……
世の中のありとあらゆるプロダクツから、「ノンネイティブ」藤井隆行さんが独自のセンスと審美眼でモノをセレクト。デザインとは? 実用性とは? 買い物の醍醐味とは? ブランド名や巷の情報に惑わされず、本当に自分に必要なモノと出会う方法を指南。
上に戻る 竹内一将(STUH)=写真 町田あゆみ=文