アディダス オリジナルスのスタンスミスに、サステイナブルを謳うモデルが登場した。
おそらくシューヒストリーにも太字で記載されるエポックメイキングな一足になるはずだ。
並べられたサンプルを見て驚いた。表面にはやわらかなシボが刻まれ、つまんだ親指は包み込まれるように沈んだ。顔つきも、実際の手触りも革さながらだったのだ。
「正直に申し上げれば、若干の不安がありました。果たしてリサイクル素材が目の肥えたカスタマーを満足させることができるのだろうか、と。しかし蓋を開けてみればそれはまったくの杞憂でした」(アディダスマーケティング事業本部マネージャー、古谷佳祐さん)。
まだ履き込んでいないから確かなことは言えませんが、おそらくエイジングも期待できると思いますよ、と古谷さんは満足げに頷いた。
新生スタンスミスは、まるっとサステイナブル
アッパーに採用したのはプライムグリーン。重さで50%以上の成分をリサイクル素材が占めるポリエステルに限ってその名を名乗ることが許される、アディダスのニューマテリアルだ。
くだんのスタンスミスは300gのアッパーのうち209gがリサイクル素材というから、構成比は70%に迫る勢いである。
ソールはリサイクルラバーを10%以上混合したものを採用、シューレース、ライニング、インソールもすべてサステイナブルな素材だ。
古谷さんが続けて語った壮大な計画は、アディダスのこれまでを考えれば夢物語には思えない。
「我々は2024年までにバージンポリエステルの使用を取りやめます。つまり、アディダスのポリエステル製品は、リサイクルのそれに取って代わられます。そのマニフェストとしての役割を担うのがこのたびのスタンスミスでした」。
20余年の地道な活動の成果
サステイナブルは21世紀の企業にとって欠くことのできないお題目だが、ことアディダスに関していえば、その動きはなにもいま始まった話ではない。
これからの時代にふさわしい企業へと脱皮をすべく、アディダスは周到に準備を進めてきた。古谷さんによれば有害物質の使用を制限すべく動き始めたのは1998年のことだ。
時は下って2015年。その年には海洋保護団体のパーレイ・フォー・ジ・オーシャンズと手を組んで海洋プラスチックゴミの再利用を始めた(海洋ゴミの8割は街からのものが占めるといわれており、2050年にはその量は海に生きる魚の総量を超えるという)。
オンラインストアを覗けば、パーレイを冠したモデルがいくつも見つかるだろう。
そして’19年にフューチャークラフト.ループ、’20年にクリーン クラシックスを立て続けにローンチした。
フューチャークラフト.ループは100%リサイクル可能なランニングシューズ。10年に及ぶ研究の成果であるフューチャークラフト.ループは、文字どおりすべてが再生できる熱可塑性ポリウレタンのみでつくられている。独自の結合技術により、汚染の原因となる接着剤を一切使用していないのも勘どころだ。
クリーン クラシックスはアッパー、ソールともにリサイクル素材を配合したモデルで、前者は70%以上、後者は10%をリサイクル素材が占める。
ストレートに切り落とされたヒールパッチが好例だが、歩留まりを良くするためにパターン設計から見直しているのも特筆すべき点である。
舞台裏での活動も盛んだ。以下、時系列に並べていけば、16年にレジ袋の廃止、17年に社内におけるプラスチックの使用禁止を通達し(社内の自販機にはペットボトルが一切見当たらなかった)、19年には使用済みのアパレルやシューズを回収するテイクバックプログラムを始動させた(現在は体制を再構築中)。
つまりアディダスは、全方位的に、かなり早い段階からサステイナブルを志向していたのである。そうして満を持して誕生したのがプライムグリーンというマテリアルであり、そのマテリアルをまとって登場したのがスタンスミスだった。
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