厚底靴がもたらした劇的変化のもうひとつは、「コンペティションモデルであれば、高価格帯でも履く」という「シューズマーケットのパラダイム」を変えたことです。
これまでのコンペティションモデルは、高くてもせいぜい2万円程度でした。それが「ヴェイパーフライネクスト%」で約3万円、「アルファフライネクスト%」で約3万3000円と、1.5倍近く値段が跳ね上がりました。
発売された当初はその価格に驚きましたが、今や各社横並び。これくらいの高価格帯になれば、シューズのクオリティを上げるために、もっと開発費も投入できる。メーカーにとっては喜ばしいはずですし、選手にとっても、よりいい靴を手に入れるチャンスが広がった、ともいえるのです。
厚底靴による5番目の貢献は「ケガの予防」と「トレーニングの変化」です。
クッション性や反発性の高い厚底シューズが主流になることで、「足への負担」が減り、「ケガの予防」にもつながっているのです。
また、「ケガが減ることで、故障せずにトレーニングを続けられている」「足への負担が減ることで、質量ともに、よりトレーニングメニューを積めている」という声もあります。
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箱根駅伝、歴史が変わる「最強の1年生」の衝撃」で解説したように、選手の高速化の背景には、「シューズそのものの性能」と「そのシューズによって、選手たちのトレーニングの質と量が上がっている」という両方の面があることを見逃してはいけません。
ナイキはなぜ「イノベーション」を生み出せたか?
日本でもベストセラーになった『SHOE DOG』でも描かれているように、創業者のフィル・ナイトは「陸上選手としてのバックグラウンド」をもっています。だから、「利益先行」ではなく、常に「ランナーファースト」。そこにナイキの「哲学」があります。
「アスリートの声を聞く」ことと、「トップのエリートアスリートだけがアスリートなのではなく、身体をもつ者はすべてアスリートだ」という言葉に集約される哲学が、今のナイキにも脈々と続いているのです。
そして、その哲学を遂行するために、「ビッグデータを活用したシューズづくり」をしているのも大きなポイントです。
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