老若男女、誰もが一本は持っているであろうデニムパンツ。ワークウェアに起源を持つその魅力はひと言で語れるものではないが、シンプルなデザインのなかには男のロマンが詰まっている。
もちろん、オーシャンズ世代であれば少しでも“いいデニム”をはきたいはず。
“いいデニム”の定義はさまざまだが、今年10周年を迎えたテンダー(TENDER Co.)は、人とは違うデニムをはきたい大人にオススメだ。
テンダーは、イギリスの蒸気機関時代をはじめとする、アンティークのワークウェアにルーツを持つ。
そもそも、単語としての「テンダー」には「給炭車」という意味があり、イギリス全土を走破するために大量の燃料を積み込んでいた給炭車はとんでもない頑丈さを誇っていた。テンダーは、その給炭車の屈強なつくりをプロダクトで再現している。
デザイナーのウィリアム・クロールも、日本にゆかりのある人物だ。エヴィス・ジーンズのヨーロッパ部門でデザイナー経験があるほか、デニムの聖地・岡山県倉敷市で生産技術を学んだという。
そこに、紳士服の聖地として知られるサヴィル・ロウでの知見を織り交ぜたデニムは玄人からも高く評価され、現在はジョン・ガリアーノやアレキサンダー・マックイーンらを輩出した専門学校セントラル・セント・マーチンズでデニム講師も務めている。
そんな“デニムの先生”の代表作が、テンダーにとっての最初のデニムである「TYPE 132」だ。
それでは気になる特徴をピックアップして解説していこう。
3つのボタンフライのワケ
よくあるボタンフライデニムと比較して、テンダーのTYPE 132にはボタンがトップボタンも含めて3つしか存在しない。これは、イギリスの国鉄時代の制服をサンプリングしたもので、トップボタンも1930年代以前のワークウェアに見受けられる、取り外しが可能なチェンジボタンを採用している。
そして、よく見るとボタンフライの下には、ヴィンテージの名作に見られる股部分のリベット 、通称“股リベ”を発見。現行デニムでは、この股リベがあるものを探すほうが困難だろう。
お次は、素材となるデニムそのものについて。
禁止されていた染色技術
テンダーのデニムは日本で生産されており、現在はほとんど使用されることのないシャトル織機を採用。シャトル織機は生産効率も悪く、そのうえ織りが不規則なのだが、テンダーはそれを個性と解釈し、デニムに豊かな表情を与え、育てる喜びを忍ばせているのだ。
そして、後染めの染色には、南ヨーロッパを原産とするホソバタイセイという天然植物からインディゴを抽出する「ウォードダイ」と呼ばれる手法を採用。ホソバタイセイの染色は、今ではほとんど行われていない石器時代から伝わる染色技法で、発酵させたときの臭いが強烈なことから、1900年代初頭には禁止されたという逸話もある。
後染めだからこそ、裏地までビッシリとインディゴ染めの形跡が確認でき、長年はき込むことで、自分だけの一本に育てることができる。
ロールアップのコダワリ
また、特徴的なロールアップもテンダーならではのこだわりだ。
テンダーのデニムは、ダブルターンアップと呼ばれる独特なロールアップを済ませた状態で出荷されている。
このロールアップは、かつてカウボーイが取り入れていたはき方で、カウボーイたちは生地が重なった部分でタバコの火を消し、ポケット状になった裾に吸い殻をしまっていたのだとか。一説によると、乾燥したアメリカ大陸における山火事防止策としてこのようなロールアップをしていたそう。
カウボーイの紳士さに、そしてそれを現代のデニムに取り入れるテンダーの心意気に、グッと心を掴まれた人も多いのではないだろうか。
ほかにもデザインの理由に言及したらキリがないテンダーの「TYPE 132」。今年は10周年を記念して、ペンポケットを新たに追加した特別モデルも登場しているとのこと。
アメリカではなく、ヨーロッパにルーツを持つデニムをはくというのも、また乙である。
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市川明治=文