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「大量生産となると対応が難しい小さな工場でも、そこで働いている人たちの腕は確かです。僕たちも小さいチームだからこそ、数に限りがあっても確かなクオリティのものをつくっていきたいと思っている。MADE IN JAPANではなく、MADE “BY” JAPANなんです。日本という場所ではなく、日本人によるクオリティを伝えたいんです」
日本に帰国するたびに、その足で衰退していくアパレル産業の工場をまわってきた大丸。なんとかしてその卓越した技術を継承していきたいと思っている。

しかし、日本のスキルにこだわりながら、なぜコンセプトは「ニューヨークを着る」なのか。それは世界で勝負するために、あえて理解しやすいコンセプトを選んだからだったという。
人種のるつぼと言われるニューヨークでさえ、現地で暮らす大丸の目には、まだまだ白人中心の社会と映る。特にファッション業界では、日本人は圧倒的にマイノリティなのだ。この街を動かす人々の目線で考えなければ、届くことさえ困難なことをよく知っている。

高まる口コミの需要

パタンナーとして成功を収め、デザイナーとしても順調に軌道に乗り始めた大丸だったが、今年、コロナ禍によって、新たな厳しい現実を突きつけられた。3カ月のロックダウンで、パタンナーとしても多くの仕事を失った。ようやく7月末にOVERCOATの展示会を日本で開き、それと同時に一般客向けにもポップアップを開くことにした。
しかし、ちょうど東京を、新型コロナウイルス感染の第二波が到来、しかも真夏の外気温は38度、照りつけるような炎暑のなかで、コートを売ることになった。「誰も来ないだろうな」と大丸は諦めかけていたが、予想に反してOVECOATは飛ぶように売れた。
次から次へと訪れたお客さんは「何を選べばいいかわからなかったんです」と口を揃えて言った。情報が溢れる社会の中で、本当にいいものを選ぶ基準。それは口コミだった。厳しい状況にもかかわらず、大丸の服の良さを拡散したのは、その服を買った人たちだった。
コロナ禍でリアルに人と人が触れる機会が減ったからこそ、親しくする友人の感想は価値が高まっている。食べログやグーグルなどに見られるマスの評価ではなく、自分が信頼している人のオススメが心に響くのだ。
「まるで呉服屋で服を買っていた時代に戻ったかのようです」と大丸は表現する。過去最大に売れたポップアップに手応えを感じ、再び、この年の瀬にも開催することにした。
「開催しようと思ったら、第三波です」とおどけて言うが、大丸には再び試練が待ち受ける。しかし、彼は「本物の技術」には自信がある。100万枚を売ることではなく、50着、100着を丁寧に売ることに集中する。だからこそ、口コミもさらに力を増すのだろう。
例のパンダをあしらったTシャツをポップアップ会場でも着ながら、嬉しそうにお客さんに語る大丸。「日本」に縛られず、「日本の技術」を売る。世界の舞台で戦い続ける彼の挑戦はこれからも続く。

 
[イベント詳細]
オーバーコート ポップアップストア

期間:2020年12月2日(水)〜8日(火) / 10日(木)〜13日(日)
住所:東京都港区六本木5-2-4 ANB Tokyo 4F
営業:13:00〜19:00
 
井土亜梨沙=文 曽川拓哉=写真
記事提供:Forbes JAPAN


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