事業家に転身、「東北食べる通信」が誕生
高橋さんは、震災後の岩手県知事選に立候補した。被災地沿岸部270km歩き回って一次産業の重要性を訴えたが、結果は惜敗。37歳のときのことだった。
「4年後の再挑戦も考えましたが、当選するための政治活動も虚しく感じて。一方で被災地で出会った若者がゼロから立ち上がろうとしているわけです。自分ももっと生産者と近いところで手足を動かそうと、政治家を辞めて事業をやることにしたんです」。
それで2013年に生まれたのが、食べもの付き情報誌「東北食べる通信」だ。
生産現場のストーリーを特集した雑誌と、彼らの作った旬の食べ物がセットで届けられるというもの。大きな反響を呼び、日本全国で同ビジネスモデルのご当地「食べる通信」が発行されるようになった。

そして2016年に、「食べる通信」が育んだ生産者と消費者の繋がりを日常にまで広げるビジネスとして、ポケットマルシェがスタートする。流通を通さず、直接生産者から購入することで、消費者にも生産者にもひと手間が増える。
たとえば、送る側は梱包をする手間がかかるし、届いた食材は時には自分で捌かねばならない。しかし一見面倒にも聞こえるこの「ひと手間」が、生産者と消費者のコミュニケーションを生み、このサービスに意義を生み出している。
都市部に住むある70代の独居女性がポケットマルシェを利用して、「買うだけじゃなくて、それをきっかけにやりとりをして豊穣な人間関係を他人と作れることにびっくりした。認知症予防になりそう」と言ったそうだ。
食の裏側のストーリーを可視化し、生産者と消費者をつなげることで、生産者を支えることはもちろん、都市に暮らす消費者に人との関わりや生きる実感を取り戻してもらう。
これが高橋さんのいう「世なおしは、食なおし」の意味なのだ。
高橋さんが現在47都道府県を行脚しているREIWA 47キャラバンでの講演会。 「結局、政治家を志したときから今まで訴えてきたことは同じなんです。28歳で花巻に帰って街頭で初めてしゃべったことは、人間中心主義、物質主義を脱しようということ。環境問題も、都市の抱える問題も、地方の課題も表裏一体なんです。
画一的な価値基準の中で優劣や効率ばかりを求めるのはやめて、いろいろなつながりの中で生かされているという感覚や、生きる実感を取り戻していくことが大事。ずっとそういうことを訴え続けてきた『言い出しっぺ』として、その社会が実現するまで言い続けていかなければいけないなって思っています」。
そのために、高橋さんはこれからも「世なおしは、食なおし」を掲げて生産者と消費者をつなぎ、地方と都市をかき混ぜ続ける。
高橋博之(たかはしひろゆき)●1974年岩手県花巻市生まれ。青山学院大学卒業。国会議員秘書を経て、2006年岩手県県議会議員補欠選挙に無所属で立候補して当選。2期勤める。2011年に岩手県知事選挙に立候補し、次点で落選。実業家に転身し、生産者と消費者を「情報」と「コミュニケーション」でつなぐ食べもの付き情報誌、「東北食べる通信」を創刊。その後「日本食べる通信リーグ」を設立し、全国各地の「食べる通信」が誕生し、グッドデザイン賞金賞(2014年度)、日本サービス大賞(地方創生大臣賞、2016年)受賞。2016年、生産者が農水産物を出品し、消費者が直接購入できる「ポケットマルシェ」をスタート。「世なおしは、食なおし。」の旗を掲げ、全国各地を行脚している。著書に『都市と地方をかきまぜる』(光文社新書)など。東日本大震災10年を前に、岩手県沿岸を再び徒歩で巡り、47都道府県を行脚する旅「REIWA47キャラバン」開催中。
https://47caravan.com 「37.5歳の人生スナップ」もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。鬱屈した思いを抱えているなら、彼らの生活・考えを覗いてみてほしい。生き方のヒントが見つかるはずだ。
上に戻る 川瀬佐千子=取材・文 中山文子=写真