1988年公開の映画『ミッドナイト・ラン』。べらぼうに面白いドラマ/アクションコメディだが、ここで注目するのはストーリーではなく、ロバート・デ・ニーロ扮するバウンティハンター(賞金稼ぎ)が着た黒革のジャケットである。
ポケットの多いフィールドジャケットタイプで、そのポケットをまさぐってライターを取り出す。あるいは札束やちょろまかした警察手帳をねじ込む。役柄の崩れた雰囲気を象徴する小道具として機能してはいるが、クサい感じまではいかない。
ある意味何の変哲もない上着であり、そこが逆説的にカッコイイのである。
さて何が言いたいかというと、今こそ黒革に戻るべきではないか、ということである。バイク乗りのユニフォームではなく、反骨心を表すアティテュードでもない、ただ街で着るための黒革。そんな気分に合うものが続々と登場しており、今季の傑作の2つがこちらである。
上はイタリアブランド、マルニのレザーシャツ。小ぶりな襟&細幅の前立てというフロント処理により、より控えめな感じを匂わせてくれる。裏地がなく軽い羽織り心地で、長時間着ていても疲れにくい。配慮が行き届いている。
下はご存じジル・サンダーによるライダーズジャケットだ。ダブルのライダーズのオーセンティックな作りを踏襲しつつ、ジッパーやストラップのちょっとした変化で今の感覚を表現。ギリギリの「何でもない雰囲気」を演出してくれる一着だ。
ややゆとりのあるシルエットとミニマルなデザインというのが共通点。今の自分なりの感性で、自由に着こなしてもらいたい。そのうえで「何でもない雰囲気」が出せたら最高だと思う。
そういえば『ミッドナイト〜』は、人生の泣き笑いを煮しめたような中年男2人のロードムービーとして見ることもできる。だからこそ彼らが纏う上着も味わい深いものとして目に映るのだろう。そして僕らも、そんな味を出せるような年齢にさしかかってきたのである。
清水健吾=写真 来田拓也=スタイリング 加瀬友重=文