会話はコミュニケーションをとるうえで欠かせない手段だ。当たり前のように発している“声”を失ってしまうなど、容易には想像できない。
だが咽頭がんなどにより、世界では毎年約30万人が声を失くしている。
病気で声を失った人々が、再び声を取り戻す手助けをしたいと、東大生チームがあるウェアラブルデバイスを開発した。それが「サイリンクス(Syrinx)」である。
これの何がスゴイのかというと、“自分の声”で話せるということだ。
これまで使われていた電気式人工咽頭と呼ばれるデバイスは、ロボットのような単調な声しか出せないのが難点だった。自分の声とは程遠い機械的な声にコンプレックスを感じ、「もう人前で話したくない」と訴える人も多かったという。
そこで東大生チームはその人のもとの声に近い音を作るために、AIを用いた信号処理によって過去の“自分の声”を解析し、それを再現する振動パターンを作成したのである。
この動画を見ると、一目瞭然だ。
また、首に装着するデバイスなので、会話をするときにいちいち喉元に機械を押し当てて話す必要がないのも重要なポイントだ。
両手がフリーに使えることで、できることも増えた。例えば食事や車を運転しながら……と、何か作業をしながらでも自然に会話でき、スムーズなコミュニケーションが可能となる。
小型で軽いから装着していても違和感が少なく、“これなら着けたい!”という声もたくさん届いたという。
サイリンクスは、次世代のエンジニアやデザイナーの支援・育成を目的とした国際エンジニアリングアワード「ジェームズダイソン アワード 2020」で、1794の応募作品からTOP20に選出されたことでも、注目を集めている。
まだ一般発売はされていないものの、今後製品化に向けて、さらなる品質向上を目指すとか。
近年は、こんなふうに医療分野でもAI技術がどんどん活用されている。大病を患っても今までと同じように日常を過ごせたら、こんなに素敵なことはない。夢のあるプロジェクトの今後に期待だ。
[問い合わせ]一般財団法人 ジェームズダイソン財団03-3238-8898齋藤久美子=文