わずか7坪の2階建て。しかしそこには、無限に近い可能性が広がる。
渋谷のシューズカスタムショップ「リクチュール」、その主人である廣瀬さんを訪ねた。
渡辺 (廣瀬)瞬くん、元気だった?
廣瀬 おかげさまで。アディダスのキャンペーンでご一緒して以来ですね。
渡辺 あのときはありがとう。瞬くんのカスタムは、やっぱり独特だよね。しかもそれがブランドから公式に認められて、イベントオファーまで届いちゃう感じが新しいし、面白い。
廣瀬 のらりくらりですね。たまにやりすぎて、ブランドからお叱りのお手紙をいただくこともあります。
渡辺 結構アナーキーだもんね。ウエスタンブーツにスニーカーソールを付けたり、コンバースのオールスターとヴァンズのオーセンティックが合体したり。でも、その新鮮な発想がいい。1+1を2以上に仕上げるセンスは、見ていて気持ちいいから。
廣瀬 もともとは靴の修理店で働いていましたが、それだけだと満足できなくなったんです。修理は靴を元の姿に戻すことが第一で、それがベスト。でも、僕はもっとやりたいなって。
渡辺 なるほど。で、渋谷にカスタムショップを開いたわけだ。
廣瀬 最初は地元の国分寺でした。でも、ショップの規模が大きく、家賃が高すぎたので引っ越したんです。
渡辺 ははは。客層は変わるのかな?
廣瀬 外国の方は多いですね。ただ、インスタを見て海外からいらっしゃるお客さんは国分寺の頃から少なくなかったんです。だからこそ当時は、もっと田舎で、とも考えていました。
渡辺 そういったフレキシブルなやり方も面白い。今いくつだっけ?
廣瀬 34歳になりました。
渡辺 その年齢を若いと感じるかは人それぞれだと思うけど、僕ら世代にはない目線というか、新しさがある。一方で、瞬くんの職人的な仕事からは見事な熟練を感じる。
廣瀬 ベースは職人だと思います。19歳で靴の修理を始めて、バイトをクビになったり、別の店で店長をまかされたり。いろいろありましたが(笑)。
渡辺 そんな紆余曲折も、クリエイションに表現されていると思う。今は何をしているときがいちばん楽しいの?
廣瀬 やっぱり新しいことをやっているときです。ソールとアッパーの未知の組み合わせを試したり。今、自分でアトリエの2階を工事しているので、壁をいじるのも楽しいです。
渡辺 店自体が“作品”なんだね。
——時に客からのオファーを受け、時に自らの発想で今までにない一足を生み出す。飄々と、黙々と。ニュータイプの職人は手を止めない。 若木信吾=写真 増山直樹=文