新人の芝居に触れて痛感した“演じない”ことの強さ
主演映画『ミッドナイトスワン』も、家族のあり方について考えさせられる。草彅が演じているのは凪沙という名前のトランスジェンダーの男性。撮影前に役のイメージはできていたが、実際にある役者と現場で絡んだことで、より役に没入できたという。
「樹咲ちゃん(服部樹咲/一果役)は、母親の育児放棄に耐えながら暮らし、遠い親戚である凪沙の元に預けられた中学生という難しい役だった。
カメラが回っていないときは等身大の中学生なのに、いざカメラの前に立つと何て言うか、出るんですよ、一果としてのただならぬ雰囲気が。そして本人は全然芝居をしていないんです。僕もこの仕事を長年やっていますが、芝居に、時間や経験は関係ないということを今回の現場で強く認識させられました。
そういう、樹咲ちゃんが演じる一果がそこに存在するということがめちゃくちゃ素晴らしく、なおかつ彼女が放つ強烈な光が僕を現場で無にさせてくれたので、何も考えず、自然に演技をすることができたのだと思います」。
今作を含めて草彅はこれまで役者として、作品の中で実体のない誰かの人生を歩む一方、最近はユーチューブを通じてプライベートをさらけ出している。だが穿った見方かもしれないが、そのむき出しの姿も誰かを演じているように思えてならない。
ではいったい、草彅 剛は誰なのか。うまくまとまらない質問に対して、うんうんと優しく頷きながら「自分でもそう思うことはありました」と言うと、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「やっぱりどんな表現でも、その人自身が出ていないとつまらないということにあるとき気付きました。だからどんな役でも僕の一部が出ていると思うんです。役でも素でも、その人が楽しむ姿を見せることで伝わるということが大きいと。
逆に「それ全部演技だ」ってなると、どこかで見透かされるというか。全部を見せるわけじゃないですけど結局、表現をする人間ってその人自身が出ているほうが格好いいと思うんです。だから今回の凪沙という役も、僕なんじゃないかなって。
不思議なことに、特に最近はそういう気持ちが強くなってきました。今の自分はアイドルだと思っていますが、だけどそれは今までとはまた違ったアイドルになっているっていうか」。
「まあアイドルって言っても46ちゃい(歳)ですけどね!(笑)」と、まじめな話を煙に巻くようにしっかりとオチをつける。なんて、お茶目なんだ! そして、スタッフが差し入れとして持参したコーヒーを持つと「このコーヒー、本当に美味しかったです。ありがとう!」と言い、笑顔で席を立つ。
最後まで掴めない男だった。でもひとつだけ言えることがある。草彅剛は「スターなのに、気さくで超いい人」ということだ。
草彅 剛●1974年生まれ。主演映画『ミッドナイトスワン』が9月25日に公開。本作は、トランスジェンダーの凪沙(草彅 剛)と、親から愛を注がれることなく生きてきた少女・一果(服部樹咲)の姿を通して“切なくも美しい現代の愛の形”を描くラブストーリー。